「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―25.―――「なぁ、あんたは僕が必要なんじゃないの。」
❅25.―――「なぁ、あんたは僕が必要なんじゃないの。」
コチコチ…。
秒針が時を刻む音と僕の呼吸音だけが響き渡っている。
意識はまだはっきりと形は成していない。
そこにある何かを必死に掴もうとして。
それなのに形を成さない何かは掴めそうで掴めない。
意識の中と現実を右往左往しながらもがいていれば不意に手が誰かに握られた感覚。
その手に連れられてスゥーッと僕の意識は現実へと手招かれた。
「はっ。はっ。うぁっ。っは。」
がばっと起き上がれば溺れた後のような窒息感に息が上がる。
ぼんやりとした視覚がまだ水面下のように揺れている。
聴覚が水を飲み込んだように何処か遠く鬱陶しささえ覚える。
ふらふらと平衡感覚の定まらない上半身。
支えるようにまわった腕が背中にほんの少しの冷たさと温もりを与えた。
ふわり。
甘い香りがする。
何処かで嗅いだことのある香り。
だけど、どこにもない香り。
「何処にもないことを僕は知っている?」
なくてもそこにあるものなのに。
僕はこの香りが欲しい。
記憶がそそる。
―――「“なんの”かおりだっけ…?」
歪んだ世界にいた。
「サマエル。」
「なんだ。」
「…サマエル。」
「なんだ。」
―――どうして。
「アンタが…。」
「どうした。」
「…夢を見た。」
「夢?」
「サマエル…。」
「なんだ。」
「アンタが…。アンタがいた。」
―――どうして。
「アンタがいたんだよ…サマエル。」
―――僕じゃない。
「サマエル、…サマエル。……サマエル、サマエル。」
―――痛い。痛い。全部が痛くて。
「なんで。…っ、なんで。」
―――痛くて、いたくて、“居たくて”
「アンタが僕の生きる意味になってくれるんじゃないの。」
分かりたくはなかった。
でも分かってしまった。
「あれは。…夢なんかじゃない。」
「なぁ、あんたは僕が必要なんじゃないの。」
困惑するサマエルが歪む視界に見えた。
「こたえろよ。」
「…。」
「アンタのそれは…。」
「その顔は誰に向けたもの?」
なにも言わないサマエルと圧倒的な疎外感。
「”ミハイル”」
薄い唇が微かに揺れて空気だけが掠めた言葉。
“ミハイル”その言葉だけがこだまする。
その言葉を最後にまた意識は夢へと引き摺りこまれていく。
「なんで。…いたんだ。」
「なんで、これもってんだ。」
そのこたえを差し出すべきか迷っている。
まるで現在との狭間で鬱陶しさを食む。
今はただ。
――――「ミハイル」
泣きそうに呟かれた声が離れてくれない。
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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