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ドキュメンタリー映画「世界で戦うフィルムたち 」で描かれる絶望に逆に勇気づけられた話

ユーロライブで”世界で戦うフィルムたち”(亀山睦実監督)を観た。

「世界」と比べたときの日本映画の現在地は、知れば知るほど絶望を感じざるを得ないような状況にも関わらず、一切の悲観に陥らずに描いたドキュメンタリー。悲しみに暮れるのは簡単で、明るく振る舞うのは難しい、人に元気を与えるのはもっと難しい。日本映画界の課題を知るための入門編でありながら作品の力でエンパワメントする難易度の高いチャンレンジに成功している力作。

前半から後半にかけてグラデーションで内容が変わる構成となっている。
亀山睦実監督の前作『12ヶ月のカイ』がコロナ禍の各国の映画祭に出品され随行する監督自らを撮影しながら描くVlog形式のパートが中心の前半部分。
後半ではその経験を通じて得た知見と、見つけた課題をシェアしながら解決策を探るインタビューを繰り広げるインタビューパートがメインとなる。

冒頭は見ごたえのある楽しいVlogで、亀山監督の被写体としての魅力でグイグイ引っ張る。(こんなに楽しいVlogを観たのは初めてかも)

コロナ禍の海外映画祭に参加した経験の貴重な記録を写す中で、自身の語学力への不安や作品をどうやって広めるかの試行錯誤をしながら映画祭を楽しむ亀山監督の様子。映画祭を調べたり、各国のフィルムメイカーとコミュニケーションを取ったり。人によっては「映画監督の仕事ってここまで多岐に渡るの?」と思うかもしれないが、ここまでひとりで請負い奮闘できる人は限られていると思う。だからこの映画の主人公(亀山監督)はインディーズの界隈でも特殊な状況にいると思って観た方がいい。普通はここまでできないが、ごく稀にこういうことがやれてしまう人がいる。

日本で軽視されがちな"フェスティバル・ストラテジー"という専門性にフォーカスが当たった初めての映画なんじゃないだろうか。どの映画祭にどういうやり方でどういう順番で出していくかの戦略は、その道のプロに任せるに越したことはないけど、亀山監督はそれすらも自身でこなしている。(状況的に仕方ないと思いながらではあるかもしれないが)

劇中で日本映画界にはプロデューサーが不足しているという課題も語られるが、本来プロデューサーが担うクリエイティブ以外のマーケティングやディストリビュートの部分を監督が担わざるを得ない状況をまざまざと見せつけられてついつい悲観しそうになるものの、それらを一手に引き受けやり切る亀山監督のバイタリティと執念にむしろ勇気づけられる。


映画祭期間中に自身の作品を観てもらうべく100社以上の映画会社にメールを送り続ける姿や英語話者しかいない交流会に飛びこみ奮闘する姿には勇ましさに加えて可笑な可愛さが漂う。それは監督自身が悲しみと無縁であろうとする姿勢によるものだろう。時にユーモアを交えて難題に取り組む亀山監督の姿から滲む人間性が、本作のエンパワメント映画としての本質がある。

映画後半では寺島しのぶ、深田晃司、清水崇、北村龍平、片山慎三、宇賀那健一、カン・ハンナなどへのインタビューが中心になる。各話に共通するのは「海外⇄日本の違い」というテーマ設定だ。
自らの力で映画を作り、映画祭に参加した経験を経て感じた問題を亀山監督の目線でピックアップし、それぞれと対話をしながら解を探そうという試みなのだろうと伺える。

「語学力」「制度(助成金)」の話題が中心となるが、それ以外にも「メジャーとインディーズ」や「日本と韓国のクリエイティブに関する考え方の違い」、「マーケティングにおけるリサーチの不足」など話題は多岐に渡る。(中絶についても扱われる『12ヶ月のカイ』が、妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を禁止する法律が適用されているテキサスの映画祭にセレクションされた際の、亀山監督と俳優・中垣内彩加の会話に含まれるニュアンスは秀逸だった…)

もちろん、このドキュメンタリーの中で日本映画の根深い問題に対する明快な解決が提示される訳ではないわけで、聞けば聞くほど日本映画が世界の中でいかに遅れを取っているかが明らかになる。現実を知れば知るほどに絶望的な状況であることが匂わされるのである。

今後、日本で映画制作をしようとする者、この業界で生きていこうとする者全員が理解しておかなければならない絶望なのかもしれない。苦境であると知ることで初めてこの世界の入り口に立てる。
(この日の上映が「学生無料」で行われていたから作り手側も自覚的に教材であろうとしたのだと思う。日本映画業界入門書あるいは映画を学ぶ学生にとっての秀逸な教科書として)

この映画で語りきれていない、より解像度の高い課題に対してはそれぞれの志を以って見据えていけば良い。

「世界で戦うための武器」という以上に、世界に目を向けるスタート地点に立つための知識や心構えを亀山監督が体を張って教えてくれるような作品だったと感じる。

この日は宇賀那健一監督、上田慎一郎監督、亀山睦実監督のトークイベント付き上映だった


本作は前半のVlogパートから一貫して武勇伝ではなく敗北談でありながら、悲観がない。むしろ亀山監督をはじめとした出演者の姿や言葉から感じるのは前向きな"たくましさ"だ。これが映画という戦いに参戦するため必要な姿勢なのかもしれないと感じる。

(「新しい戦い方」を考えるには絶望を引き受けるところからしか始まらないのだな…)と思いながら上映後のアフタートークイベントを聴いていると、亀山監督の口から「誰かの方法が当てはまらない。自分のやり方でやるしかない。それを考え続けるしかない」という学生にとっての金言も飛び出した。

戦っている人間の背中で語る見事なエンパワメントドキュメンタリーに出会えて、自分自身が今後「映画」にどのように関わっていこうかと考え直すこともできた。考え続け、トライし続けるしかないのだから。



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