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有料老人ホーム1位のベネッセスタイルケアを分析!〜医療・介護系企業分析シリーズ ⑭〜

サマリー:短期的には順調に成長すると想定
ベネッセスタイルケアは、介護付有料老人ホーム・住宅型有料老人ホームを中心に居室系の介護施設を展開。短期的にはハイエンドの施設の拡大や地域ドミナントにより順調に成長すると想定。中長期的に市場の伸びが停滞することを見越した新規開設以外の成長戦略が求められる。
記事の構成:
1.会社概要(株式会社ベネッセホールディングス)
  - 1_a 歴史
  - 1_b 事業内容
  - 1_c 業績推移
2.ベネッセスタイルケア(介護・保育事業)の分析
  - 2_a 自社分析(売上・利益、KPI)
  - 2_b 市場分析
  - 2_c 競合と自社ポジションの分析
  - 2_d 今後の戦略 
3.簡易財務分析
4.評価
  - 4_a 現状に対する評価
  - 4_b 将来に対する評価
  - 4_c 今後取るべき戦略の提案

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1.会社概要(株式会社ベネッセホールディングス)

1_a 歴史
1955年、生徒手帳等の発行する株式会社福武書店として創業。「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」を中心とした通信教育事業で成長。
1995年、大阪証券取引所第二部および広島証券取引所へ上場。また、同年にホームヘルパー2級養成講座を開講し、介護事業に参入。
2000年に東証一部に上場。同年に、介護付高齢者向けホームの伸こう会株式会社の経営権取得。
2003年にグループ内の介護事業会社3社統合し、「株式会社ベネッセスタイルケア」を設立。
直近では、「国内教育」「海外教育」「生活」「シニア・介護」「語学・グローバル人材教育」の5つを成長事業領域と位置付け、国内外での事業拡大を目指す。

1_b 事業内容

国内教育:進研ゼミやこどもちゃれんじなどの通信教育がメイン
海外事業:中国での幼児向け通信教育
介護・保育:ベネッセスタイルケア(介護施設・保育施設の運営)
語学:ベルリッツなどの語学教育
その他:テレマーケティング・通信販売・雑誌(たまごクラブ等)

国内教育と介護・保育が売上の二本柱となっている。
売上のうち、約26%をベネッセスタイルケア(介護・保育)が占める。

1_c 業績推移

2014年7月に起きた個人情報流出事件の影響で、国内教育事業の会員数が激減し、営業利益が落ち込んでいる。
一方、有料老人ホームを中心とした介護事業は国内教育事業の不振を補う成長を見せており、事件による売上は微減にとどまっている。



2.ベネッセスタイルケア(介護・保育事業)の分析

2_a 自社分析(売上・利益、KPI)

売上:年間15~20施設のペースで施設を新設し、売上を順調に伸ばしている。また、入居率を高く維持し施設あたり売上も増えている。

利益:東京神奈川を中心とした都市圏での地域ドミナント戦略やハイエンドの施設への注力により、競合よりも高い利益率のまま売上を拡大することに成功している。

施設数の内訳は東京・神奈川が多く占め、今後急速な高齢化が見込まれる大都市圏に注力していることがうかがえる。

施設の価格帯ごとでは、月額費用が約50万円の「グラニー&グランダ」が約40%を占め、ミドル〜ハイクラスの顧客層を積極的に拡大している。

2_b 市場分析

まず、当社の属する施設・居住系介護サービス市場を分析する。

これまでは、
国の社会保障費削減の流れの中で、医療から介護施設・在宅介護への誘導政策により、市場は拡大してきた。
一方で、近年は市場の成長は鈍化し飽和の様相を呈している。
特に介護付き有料老人ホームは各自治体の総量規制の下で供給は抑止傾向にあり、それを補うようにして住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は増加している。

次に、当社が注力する有料老人ホーム市場の伸びしろについて分析する。(団塊の世代が後期高齢者になる2025年までを考える)

有料老人ホームの月額利用料の相場が20万円で、10年住むことを見込んだ場合、有料老人ホームに住むために必要な貯蓄額は約2400万円と想定。
下図(団塊の世代の貯蓄額)からその貯蓄額を満たす世帯は約15%しかない。

これに加え、平均寿命が約90歳・入居が寿命の約3年前だと仮定すると、
後期高齢者(75歳以上)で貯蓄額を満たす人のうち、有料老人ホームに入居しうるのは20%となる。

これらを踏まえて計算すると、現状は有料老人ホームの需給はほぼ一致しており、2025年時点で市場規模は+38%になる。2025年に向けて需要に合わせる形で施設数は増え続けると想定される。

地域別で見ると、この需要の増加は、東京神奈川などの都市部で特に激しく、当社の注力するエリアと合致している。

財源の観点からは、
将来的に国の介護給付費の財源が頭打ちになると、
低所得の要介護者は有料老人ホームからより保険料の安い在宅介護へと移らざるを得なくなり、
中長期的には顧客層が家計に一定の余裕があるミドル〜ハイクラスの高齢者になるため、
「有料老人ホームの中でも、高価格帯でハイエンドな施設に注力する」という当社の戦略は間違っていないと言える。

プレイヤーの数で見ても、
低〜中価格の市場は大手のみならず中小規模のプレイヤーも参入し、過当競争となっている一方で、
高価格帯の施設は大きな初期投資が必要であるため、参加できるプレイヤーは限られ、まだホワイトスペースが残っていると思われる。


2_c 競合と自社ポジションの分析

シェア:1位
有料老人ホーム市場で業界首位で、シェア5〜10%程だと想定。
在宅介護ほどではないが、分散市場であり、大手企業以外の中小規模のプレイヤーも多数存在する。
主な競合としては、SOMPOホールディングスやニチイ学館がある。

営業利益率:競合と同水準
売上成長率:競合よりも高い

・ベネッセスタイルケア
営業利益率(2018/3期):7.9%
売上成長率(2017/3期比):+8.6%

・SOMPOケアネクスト+SOMPOケア
営業利益率(2018/3期):5.1%
売上成長率(2017/3期比):+7.5%

・ニチイ学館の介護事業
営業利益率(2018/3期):9.8%
売上成長率(2017/3期比):+2.6%

2_d 今後の戦略 

当社の2018年3月期決算説明会資料によると、今後の戦略として、
これまで通り、
・地域ドミナントを意識した施設の新規開設
・ハイエンドの施設に注力
という戦略をとるようだ。


3.簡易財務分析

ベネッセホールディングス全体で、
自己資本比率:34.5%
流動比率:167%
となっている。


4.評価

4_a 現状に対する評価

評価:◯

理由:
市場フェーズとしては徐々に成長市場から成熟市場に切り替わっていくタイミングではあるが、まだ十分需要の増加が見込まれる。
その中で、伸びしろが大きい地域(大都市圏)や価格帯(高価格帯)に注力することで、競合より高水準の利益率・成長率を維持できている。

4_b 将来に対する評価

短期:◯ 中長期:◯

理由:
2025年にかけては人口が多い団塊の世代が後期高齢者に突入するため、市場の成長は続く。
中でも特に成長が期待できる「大都市圏」に「高価格帯でハイエンドな」有料老人ホームを新規開設し続けることで、成長を維持できると想定。
一方で長期的な懸念点としては、市場の成長に合わせて増設した施設が、2025年以降に成長鈍化した際に負債となってしまう点がある。

4_c 今後取るべき戦略の提案

2025年付近で後期高齢者の人口増加が止まると予想されるので、市場の伸びが止まることを見越して、施設の新規開設以外の成長戦略を準備する必要があると考える。

一つの施策としては、「地方の中小プレイヤーが運営する優良な施設の看板付け替え」が考えられる。

現在当社があまり進出していない地方部に進出し、その際、自社で新規に施設を建てるのではなく、業界首位のベネッセのブランドを元に、経営状態が良い施設の看板を付け替える方式で進出すると良いのではないか。



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