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随筆5




いつぶりかの新幹線に乗っている。
新幹線は広い。揺れも優しい。なんとなく新しい匂いがする。
持ってきた本を開く気力がなかなか起きないまま、考えている。考えるフリをしている。

振られたんだな、会社に振られた。
社長面接もして感触も最高だったはずなのに振られた。社員4名と食事会までしたのに。
「こんな飲み会じゃ断りの連絡が来ちゃうかな笑」「君に会えた縁だと思っているよ」って言ってたじゃん。
誠実さってなんだ。

やはり新卒一期目をとるフェーズに無かった、と言われた。もっとマシな言い訳をして欲しかった。嫌いだ、お前のような無能では使えないからと言われた方が良かった。本当に余裕がないのなら初めからわたしの面接なんてしないでくれ。
私しか最終選考に残らなかったのだから、会社が土壇場でその決断をしても被害を被るのは私1人だった。FacebookのわたしからのDMも、社長宛の手紙も、ただ虚しくわたしのiPhoneの履歴に残っている。可哀想に。

2度目の就活。今まで何度も会社に落ちてきたので、今回の件もこんな落とし方ってあるかよ〜って笑えているけど
内心は全然穏やかじゃない。
みんなマジで働いていて人生をやっていていつか死んじゃうなんて、全然理解できない。

断りの電話のあと、
今この瞬間に限っては自分だけが1番複雑でどろどろしている、という顔をしてしまった。いやらしい。何者かの加護を受けたくてたまらない、それも一方的に。なんでも良いから愛されたい。ただでさえそんなに見られた顔じゃ無いのに余計に酷くなった顔で、西友で189円のフランスパンを買った。家でオリーブオイルとバルサミコ酢をつけて食べた。最近ハマっている。これをするとよく便秘になる。でも美味しい、これはモロッコ旅行の時によく食べた。その時も人生最大の便秘になった。

新潟旅の移動時間は、江國香織の、やわらかなレタスを読んでいた。彼女はひらがなをやさしく使う作家だとおもう。すきだ。
高崎で昔好きだった先輩にそっっくりの男が乗ってきた。ガン見してしまったけど全然こちらを見なかった。相変わらず一重の良い目をしていて、気持ち程度に生えたあの逆さまつ毛を触ってみたかった。あの時も振られたんだった。嫌なことを思い出した。

ほんと一瞬で着いてしまった越後湯沢。
新幹線ってスゴイ。一生乗っていたかった。

越後湯沢は当たり前に寒い。

火照った気持ちをつめたくしてくれる。
全身をビリビリさせるような寒気と、つめたくて暗い夜の空。鼻の内側からゆっくり雪の世界に染まっていく。
空も空気も世界も心地よくつめたい。わたしは冬が好きだ。

川端康成の雪国。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。夜の底が白くなった。」

夜の底が白い、という感覚を得ることはないまま越後湯沢を出た。冬はいつだって白い、わたしはまだ夜の底を見つけられない。
 
抱えているもの全部、
杉並の四畳半では処理できず
耐えられなくなったから、
弾丸で新潟に来た、
楽しかった、
日本じゃないみたいだった、
わたしは、わたしについて思うことがたくさんあった。
何かが解決するわけではないけど、人間にはきっと、どうしてもど田舎の自然が必要な瞬間があるんだと思う。ウソみたいな山の中で一生懸命に雪解け水が流れるところとか。
多分だけど、それが今回だった。

ところで、ワインは温めて飲むとぶどう酒という名前の印象にふさわしい味になる。とても甘くて良い。シナモンスティックがあると尚楽しい、以上。

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