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『ぼっち・ざ・ろっく!』のどこが人の心を射抜くのか?

 おそらく全人類の七割くらいはそうなのではないかと思うのですが、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が好きです。

 原作も読んでいるのだけれど、やはりアニメの出来が良い。昔は何であれ原作を超えるクオリティのアニメなんて超希少な存在だったのですが、最近はぽつぽつありますね。そのくらいアニメのレベルが上がってきているということなのだと思います。良きかな良きかな。

 それにしても、放送当時には大きな話題となり、たぶん続編も制作されるであろうこのアニメはなぜここまで人の心を打つのでしょうか。

 ロック×美少女というアイディアそのものはいってしまえば平凡なもので、それ自体はそこまで独創的なアイディアではないと思います。

 陰キャでひきこもり気質の女の子が主人公を務めるストーリーも、最近ではさしてめずらしいとはいえないでしょう。それにもかかわらず『ぼざろ』がたくさんの人を熱狂させたのは、やはりその「熱量」に理由があると感じます。

 主人公である「ぼっちちゃん」ことひとりちゃんの熱い「いっしょうけんめいさ」が何とも鮮烈なのですね。

 彼女は救いようもないくらいコミュニケーション能力が欠落した「ダメ人間」であるわけですが、その一方できわめて優れたギタリストでもあります。

 それ自体はご都合主義的設定といえなくもないものの、視聴者を魅了するのは彼女がとくべつ天才ギタリストに生まれついたわけでもなく、極度の努力によってそのスキルを身につけたという設定でしょう。

 ほとんど努力しているところを見ないのになぜか素晴らしい演奏を展開する『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』といった先行作品と違って、この作品ではちゃんと努力の果てに技術を身につけたという描写になっているのですね。

 とはいえ、現代では「努力」という言葉はあまりはやらない印象です。むしろ「異能バトル」系統の作品や最近のスポーツマンガのように「自分の才能を活かす」とか「個性で勝負する」といった方向性の作品を良く見かける。

 それも良くわかる話で、現代ではただひたすら愚直に努力することの限界が見えてしまっているのです。

 昔はスポコンマンガの名作『キャプテン』のように、「ただひたすら努力することによって壁を乗り越えていく」という描写に一定の説得力がありました。

 しかし、この格差社会においては、その努力は天才的な才能や経済的な環境の格差といった理不尽なまでの壁をまえに何の役にも立たないかもしれないということがわかってしまっている。そこで、「それじゃどうする?」と考えるのがいまふうだと思うのです。

 だけれど、『ぼざろ』はわりと古典的に執拗な努力によって壁を超えようとしているように見える。ネットでは「ギターヒーロー」として尊敬されているのだからその方向性で食っていくことを考えても良いようなのだけれど、あくまでリアルで何とかしようとするところもそうですね。

 あえていうならぼっちちゃんの生き方はそこまで賢くない。もっとラクなやりようはありそうにも思える。でも、まさにそうだからこそ、彼女どこまでもいっしょうけんめいな愚直さはストレートに胸に突き刺さるわけです。

 あたりまえの努力神話が無効化されてもなお、めちゃくちゃに努力することでコンプレックスを乗り越える。

 それは、決して経済的な生き方とはいえません。聡明というわけでもないでしょう。でも、そうはいってもやはり真摯で、真剣で、鋭く胸をえぐる何かを備えているわけです。どれだけむなくしても、報われなくてお、結局はそれしかないよね、ということでもある。

 ぼくは生まれつき「がんばる」という言葉が脳にインストールされない体質なのであまり努力したことがありませんが、それでも努力はやはり大切だと思う。

 自分の個性を活かすにしても、才能を開花させるにしても、一定の努力は最低条件としてどうしても必要になるんですよね。

 それがイヤだというなら、膝を抱えて丸まっているしかないのかもしれない。きびしい現代社会において、それで生き残っていけるかどうかはむずかしいところですが。ほんとうに生きることは大変です。

 とはいえ、ぼくみたいにひたすら好きな音楽を聴きながらnoteを書き散らしているだけの人間でも一応は生きていけるので、意外にいうほどきびしくはないのかもしれないけれどね。

 ぼっちちゃんみたいに「好き」を突きつめて生きていける人ばかりではないことはもちろんですが、それでも、自分の「好き」を貫き通したいなら努力するしかない。それが現実。

 ぼくも遊んでばかりいないですこしは努力しようかな。生まれてからいままでまともに頑張った記憶がないから何をどうすれば良いのかわからないのだけれど。

 BGM:結束バンド『結束バンドLIVE‐恒星‐ at Zepp Handeda(TOKYO)』

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