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第22話 都市伝説『見逃し』(BJ・お題「心霊写真」)


医者というのは病気に関する危険物も扱っていますし、人相手の仕事でありますから、いろんな意味で危険のある仕事です。とくに医療ミスというのは、医者にとっても怖いものでしょうね。

ある大学病院の整形外科に、医師になって三年目の若手医師、野村先生という人がいました。新米医師というのは基本的に自分の腕にまだ自信がありませんから、先輩に怒られないか、失敗しないかと、いつも思いながら働いている。どんな仕事でもそうでしょう。そのうち少しずつ慣れてくるわけですが、野村医師の場合、苦手なことは避けるようになるんですね。無難な仕事に逃げてしまう。それでも有無を言わさず任される仕事はある。そういうのはなんとかかんとかやり過ごす。そんな日々を過ごしていましたから、周りの医者たちと比べても、自信がいつまでもつかず、びくびくしていました。


若手医師というものは、アルバイトをします。それは、夜や土日の当直や救急外来ですね。訪れた患者さんに、なにか問題を見つければ、とりあえずの処置をして繋いでおいて、平日の昼間にまた来てもらえばいい。そのときはベテラン医師が改めて診るわけです。そんなに面倒なことでなければ、薬を出したり処置をしたりですね、そういうことをして対応します。


ある日野村医師が、アルバイト先の内科の病院で当直をしていると、双葉春子(仮名)ちゃんという小学四年生がお母さんに連れられてきました。内科と言っても田舎ですし、時間外でしたらいろんな患者さんが来ます。脇腹をぶつけた、ということで春子ちゃんは痛がっていました。そこで胸のレントゲン写真を撮ることになりました。

この写真というのは、検査の中でも、患者さんに判りやすいものですよね。ただ、それを読むトレーニングを積んだ人にしか、正しく写真を読むことはできません。

また判りやすいということは、ちょっとごまかしの余地がないということでもあるんですね。血液検査だと、検査結果を難しい顔をして眺めて「まあまあでしょう」とかなんとか言ってごまかすこともできます。でも写真だと「ここに肺炎がありますよ」とか、何もないのには言えません。

野村先生は、写真読むのも苦手に思っていました。大学病院ならたくさん医者がいますから、影が微妙な写真については他の医者のいるときに貼り出しておく。「ああ、ここに腫瘍があるね」なんて先輩や同僚が言ったら「ああ、そうですねえ」と話を合わせて判っていたふりをしてごまかしていたんです。

でも週末の夜のアルバイトでは病院には彼一人です。何も判らなくて頭を抱えるんじゃないか、診察室でうろたえる姿を患者さんに見せることになるんじゃないか、と気が気でないんですね。だからレントゲン撮影をするとき野村医師はレントゲン室に赴き、事前に写真をしっかり見ておきます。場合によってはレントゲン技師さんに相談して、何が写っているか教えてもらっていたっていうんです。

そうは言っても、まったく写真が見られないわけではありません。国家試験には合格して医者としてのお墨付きは貰っているわけですから。また、病気の場所がはっきりとした、判りやすい写真というのもあります。彼の場合整形外科医ですので、骨折については、冴えているといいますか、見逃しをせずに診ることができました。だから「どうか、判りやすい骨折であってくれ」と思います。

さて、レントゲン写真が現像できました、今時ですから撮った直後にモニターで写真が見られます。胸部が写っていました。「あ、これははっきりしていますね」と技師さんが言いました。野村先生も見てみると、肋骨に骨折があります。「ああ、これはたしかに」と先生は言いました。

「かなり苦しそうにしているんですが」と、お母さんは心配していました。でも野村さんはそんなことより、ほっとしていました。

「ああ、たしかにね、痛いでしょうね。場所が場所ですから、バンドがありますからね。つけておきましょう・・」と言って野村さんは慣れた様子で、胸部の骨折があったときに使うバンドをつけていきました。得意な領域で対応ができました。

「安静にしていることですね。1週間はかかりますよ」と言って二人を帰します。大変感謝されました。

さて、しばらくしてからその病院に、夜にアルバイトに入ることになりました。技師さんと話をする機会がありました。

「ああ、この前はすごかったですね」

「すごかった、ですか?ええっとお」

「ほら、あれ、小学生の」

「ええっとお・・」

野村さんは口ごもってから、「ああ、あれねえ」と苦笑いをしながら言いました。
技師さんの口ぶりにひっかかるものがあり、「あの画面、もう一度画面を見られますか?」と言いました

「ああ、できますよ」と技師さんは言い、検索してくれました。

モニターを覗き込みます。野村先生は震えました。

さてみなさん、この後どうだったと思います?もちろん一捻りはありますよ。BJの話ですからね。レントゲンに心霊が写っていた?違います。ある種惜しいのかなあ。

写真には腫瘍があったんです。骨折は誤診ではありませんでしたが、そちらに目を奪われて、もっと重要なものを見逃していたのです。

ですが野村先生は、それをそのままにしてしまいました。

患者さんの家族に知らせるでもなく、病院に紹介するでもなく。

それが後々問題になります。春子ちゃんは亡くなり、訴訟にまで発展しますが、その際も野村先生は「腫瘍に気づかなかった」と言い切ったそうです。

その後まもなく野村先生は、肺病を患って、若くしてあっけなく亡くなりました。

野村先生はどこでその病気をもらってきたのでしょう?まだ、見逃しがあったのかもしれませんね。

という話で終わるわけはありませんね。BJですから。

以上の話は、すべて嘘です。

病院の話ではありません。心霊相談所の話でした。野村先生という医者はいません。心霊相談所で働く若手の霊能者です。レントゲン写真とは、心霊写真のことです。

写っていたのは骨折でも腫瘍でも、肺炎でもありません。誰にでも見える巨大な女の霊と、霊能者にしかわからない、四十九体の幼い悪霊です。

双葉春子ちゃんが亡くなったのは本当です。野村さんが死んだのも本当です。

あ、あっけなく死んだ、ってのは嘘かな。

ということを踏まえて、ぜひもう一度この動画を見返してみてくださいね。細かいところも見逃しのなきよう。。

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