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福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法

〇イントロダクション


 福岡市の高島市長を初めて認識したのは、平成28年11月の道路陥没事故の際に、犠牲者を一人も出さずに1週間で復旧したこと、また、それについての情報発信が市長自らなされていたことからでした。
 そこから、FBをフォローさせていただいているのですが、元アナウンサーということもあり、SNSなどでも自分の言葉で的確に情報提供・情報発信をされています。
 自治体の広報は、正確性と、わかりやすさのバランスに加えて、「中の人ならでは」の風味というかテイストというか、そういったものが入ると、一般の人に、自治体を身近に感じてもらえ、情報も入りやすいのではないかと思いますが、それを体現されておられると思います。

 さて、この本も、そういう流れで、特に中身も確認せず(!)手に取って読み始めたのですが、内容は、全然予想の斜め上を行く、現代日本の、変わらなければいけないのに、変えられない、タブー的部分にも深く切り込んでおり、逆にこれは炎上しないだろうかと心配になる部分もありました。もちろん、発信のプロであられるので、言葉はものすごく慎重に選んでおられましたが。

 内容的には、コロナ禍を機に、日本が変化しなければならないことをまとめているのですが、コロナ禍も変化が激しく、この本はおそらく今年の始めに書かれているので、今のデルタ株の猛威は予想されていないので、すでに内容は少し古い部分はありますし、ここにきて、経済活動の再開の出口戦略が少し議論されるようにはなってきましたが、それでも、大筋は間違ってはいないのではないかと思います。

 問題の大元にあるのは、歴史をさかのぼり、太平洋戦争の反省に基づく対応が、平時にはある一定程度の意味があったところ、コロナウイルス感染症の流行という戦争に近い「有事」に遭遇して、課題が一気に出てきたということにあります。
 もちろん、本書の著者も、もちろん私も、太平洋戦争への反省は必要であったし、軍事や戦争を賛美するものではないことをお断りしておきます。また、このまとめはあくまでも私個人が心に残った部分をまとめているので、もしかすると本当の著者の意図を汲みとってはいないかもしれませんが、ご了承ください。

①感染症対策と軍事研究


 戦後の平和教育を受けてきた私たちにとって、軍事のための研究はやってはいけないこと、と自然に思うようになっています。それでもあえて、逆に、そういう研究をしていないことが、有事に対応できる体制ができていないこととなり、今後想定される新型感染症やバイオテロに対応できず、逆に日本を危機に陥れるとのことでした。
 また、「国家による情報の管理」に、ただ漠然と不安を覚え拒否感を示すことが、結局は行政サービスの低下やセーフティネットの機能不全を招いていることを紹介し、有事への備えをタブー視しすぎることは、危機管理能力の低下、技術力の低下など、様々な弊害を生み出しかねない、と、あえてタブーに切り込んでいっています。

 以前、永世中立国スイスは、中立を保つために、自分の国を自分で守るための軍事力と、食料を自給する仕組みをコストがかかっても整えていると聞いたことがありますが、それと同様なロジックなのだろうと思いました。

②ゼロリスクのリスク


 システムや製品などに対し、人々が抱く根強い「ゼロリスク神話」、つまり、あらゆる物事に対し「100%の安全を求める」という、この国全体を覆っている空気が、逆に、国や行政の動きを鈍らせ、新しいサービスや技術が社会に実装されるのを拒んでいることは否めないとのことです。例えば、昨年の特別定額給付金の給付の遅さの原因は、マイナンバーカードの普及率低い、行政が個人の銀行口座を把握していないことにありました。
 しかし、マイナンバーカードとか行政が口座を把握するとか、普通に聞くと、「え?」と思うのが、今日本に住んでいる人の感覚ではないでしょうか。このような、私たちの、国による個人情報の管理の一元化への「アレルギー」は、ここでも、太平洋戦争の敗戦直後に行われた「戦争をしない国づくり」に端を発しています。マイナンバー制度は「国による国民の管理、ひいては将来の徴兵制等につながる」と拒否感が強いのです。確かに、戦争を2度と繰り返さない仕組みは大切なのですが、感染症の流行という「有事」にセーフティネットが迅速に機能しなかったことにもつながっていると指摘しています。

 この「ゼロリスク」で最も顕著なのは、予防接種ではないでしょうか。予防接種の副反応で障がいが残ったという話をことさら取り上げるがゆえに、その有効性がなかなか見えません。予防接種を打つことによりどれだけの人が病気にかからずすんでいるか、その比較をあまり見たことはないです。

③有事の際の権力発動


 日本において、有事への対応が遅かったり、変化に時間がかかったりする大きな理由としては、まず、日本の政治や社会が「物事が簡単に決められないシステム」になっていること、そしてここでも、太平洋戦争の反省から、人々が軍事関連技術の発達や国による個人情報の管理に対し、抵抗感を抱いていることがあります。繰り返しになりますが、先の大戦の反省は大切なのですが、「「国が国民の情報を一元的に管理できない、現在のシステム」と、「国に個人情報を管理されることに対する、国民の漠然とした不安感や警戒心」こそが日本の「さまざまな遅れ」を生み出した原因の一つ」であるのではないか、ということは、妙に腹落ちできました。
 そうした中、我々一人ひとりも情報を管理されることに対し、賛成か反対かという両極端で考えるのではなく、国民の利便に適う部分については、個人がデータ提供およびデータ連携を受け入れ、ICTを最大限に活用していくとか、その活用の条件を、今回の特別定額給付金のような有事などにある程度限定して了承するといったことも考えていかなければならないとのことです。これを、個人情報への考え方を「アップデートさせる」といっていました。

④政治活動のススメ


 何かの規制緩和をしようとすると、「既得権者」サイドの猛烈な反対にあう、というのはよくある話ですが、それを批判するだけではなく、どのように攻略するか、を提案しているのが、大変新鮮な切り口でした。
 政治家は特定の業界団体などから選挙を応援してもらったり、物心両面で支援を受けているので、規制緩和はこのような族議員の反対により妨げられることが多いわけです。
なので、それに対抗して、自分たちの要求を通していくためには、単に自分たちの理想を語って終わりにするのではなく、「大義」を打ち立て、既得権者が納得せざるを得ないような戦略的な話の進め方をするなり、状況を変えられるだけの力を持つなり、考え方の同じ議員などに相談するなり、何らかの戦略を実行する必要があります。
 というわけで、同じような政治活動を行うことを勧めているのです。
さらに、自分の支援する政治家に、何かやってもらいたいなら、何かしてあげることも考えなければならない、つまり、周りの人に自分の支援する政治家への投票をお願いする、という具体的な行動まで提案をしています。
法や規制、既得権者の障壁を乗り越えて、新たなビジネスを確実に社会に実装するには、表の営業、つまり、製品やサービスの質を高めてアピールするだけではなく、裏の営業、つまり、選挙活動やロビー活動を行い、政治家やメディア、有力者を味方にすることの両方必要なのです。このような政治活動は、海外では盛んだが、日本ではまだあまりされていないとのことでした。

⑤医療体制について


 最後に、なかなか発言できない医療のことについて述べていました。
 新型コロナウイルスが世界中にまん延してから1年以上経過していますが、行われているのは、緊急事態宣言による外出自粛や休業陽性、学校行事の中止で、その理由は、「医療提供体制を守り、医療崩壊を防ぐためとなっています。

 確かに、現場で医療従事者は頑張っておられます。
 しかし、誰もがもやもやしているのは、日本医師会は、感染者数を減らすことを強調するが、なぜ、病院の病床を増やすことを言わないのか、という点なのではないかと指摘しています。
 そこで、まずは、日本の医療体制の特徴が、未知の感染症に対応できない、つまり、小規模・分散型、民間の病院が多く、地域で気軽に診てもらえるが、未知の感染症に対応できる病院が歴史的に少ないこと、国民の衛生状態がよくなり、感染症対応も縮小していたことを上げています。
 そのうえで、未知の感染症に備えるのは効率的ではないので、平時の医療資源を有事に対応できるようにするという一つ目の提案がされていました。
 しかし、さらに、医療体制の問題にまで切り込んでいます。
医療については、体制を検討するのにリーダーシップの取りにくい分野です。なぜなら、知事が地域に合わせて医療提供体制を考えるが、任期4年の知事より、専門性を持つ医師会の方が詳しい上に、知事は、選挙の時に医師会に支持してもらっている場合が多く、意見を言いにくい、という、なかなか発言しにくいところから始まります。
 とはいえ、コロナ禍のあとの新たな感染症やバイオテロなどの有事が発生したときに対応できる体制とガバナンスの作成が必要で、医療ならば、有事に感染症病床に対応できるような体制づくりや、医療資源(医師や病院)を国(厚生労働省)が調整するリーダーシップを発揮できるようにしなければならないと述べています。
 つまり、国民にばかり自粛を呼びかけるのではなく、医療提供体制を変える改革を検討すべきである、と結論付けています。

 コロナ対策で、医療従事者の方への感謝という側面があり、もちろんそれは正しいのですが、そこであえて、聖域にここまで切り込んだ話を表でしたのをあまり見かけませんでした。


さ て、これだけの提言を、日本は実現することができるのか。逆に、実現できないと、と考えると…ですが、こういうことを、政令指定都市の首長で考えている方がいらっしゃることを励みに、自分は自分の半径三メートル以内で、できることからやっていきたいと思います。

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