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八王子とサウナとチュン太と

「八王子って結局何があるの?」
と聞かれると、「ナ、ナンデモアルヨ…」と、ゴニョゴニョ言ってしまう永瀬です。

我が愛する地元、東京都八王子市。
天気予報ではなぜか「東京」の枠に入れてもらえず、雪予報の日はなぜか真っ先に取材してもらえる愛おしい生まれの地。予報通りに雪が降らないとなぜか申し訳ない気持ちになるのは私だけではないはず。

そんな地元を飛び出して早2年、頻繁に八王子には帰省していたが、先週の週末、久しぶりに八王子に降り立ったのだ。

冒頭に戻りますが、「八王子って何があるの?」と友達なんかに聞かれると、「た、高尾山があるよ☝」なんて答えていたが、愛する地元に何があるかと聞かれると、美味しい空気と愛する仲間たち、なんて、誰からのニーズもないクソつまんない答えを言ってしまいたくなる。

だが、今回の帰省で、八王子の良さを確実に伝えられる施設に赴いたので、今回はそちらについて熱く語りたいと思う。

金曜日の昼の23区は温かく、わたしは春の再来に喜び鼻歌を歌いながら、Gジャンに薄っぺらいインナーとGパン(デニムというのは恥ずかしい)といういでたちで八王子駅に降り立った。

え?びっくりするほど寒い。

「!」と、ポケットモンスター金銀だったらバトルを申し込まれてしまうような寒さである。

そこでわたしは、寒さに震えながら八王子が誇るスーパー銭湯のことを走馬灯のように思い出した。

そこは、八王子市ではあるけれど、八王子駅ではない。そう、八王子はめちゃくちゃ広いのだ。
駅で言うと、京王片倉駅。歩いて15分程で見える、城にも見える立派な温泉施設が、「竜泉寺の湯」である。

竜泉寺の湯は、歯医者の同僚に初めて連れて行ってもらったのがキッカケで行くようになった私のホーム温泉だ。
時に仕事の愚痴を言い合い、同僚たちと裸の付き合いをする親交の場である。
わたしは久しぶりに降り立った八王子のあまりの寒さに、キョンシーのような動きで龍泉寺の湯に向かった。

竜泉寺の湯は、750円で一日いられるスーパースーパー銭湯なのだ。お食事処のお食事もとても美味しい。
炭酸泉が自慢の湯で、ファミリー層も多いからか、温度は39~40度のぬるめのお湯が多い。
都会の、「押すなよ!」と言いたくなる43度くらいの熱湯風呂ともとれる銭湯に慣れてしまっている私だが、竜泉寺の湯では、炭酸泉がじっくりと体の細胞の一つ一つを優しく包み込んでくれるのだ。

炭酸泉にゆっくり使って10分。さて、そろそろ行くか…と、私は戦地、サウナに足を向けた。
その入り口で見慣れない看板を見かけた。

バズーカロウリュが00分、30分に行われます

去年来た時はこんなヤバいタイトルの看板はなかったはず…。
と、心のざわつきを無理矢理抑えながらもサウナに突入した。

竜泉寺の湯は、癒しの炭酸泉がある半面、なかなかに強烈なサウナであることを記憶していた。

二十扉を開いた時、時間は20:05分。丁度バズーカロウリュとやらが終了したであろう時刻である。

え?300℃????

むせるような暑さに、瞬時に疲弊した。行ったことないけど熱帯雨林ってこんな感じなのかな。
この1年間、都会で数々のサウナと対峙し、サウナへの免疫力はだいぶ高まっているはずだ。

待って待って~こんな暑かったっけ?と、誰にも急かされていないのに心の中で「待って」を連発した。プロミスザスターも歌いたくなった。

5段くらいある椅子の中段あたりに腰掛ける。真ん中にあるテレビでは、可愛いネコチャンの特集をしているが、もうすでに噴き出した汗が熱湯に変わって背中を伝っている。もうネコチャンどころではない。

1セット目は4分であえなく退出。くうう。と、なぜか敗北感とテレビからのネコチャンの視線を感じながらも水を全身に浴びて水風呂へ。

水風呂は15.8℃。足の先がキーンと冷えて痛くなったところで外気浴へ。

この施設には、露天風呂エリアに10個以上のリクライニングチェアが用意されている。
5年前は分からなかったけど、整うための椅子だったんだね…なんて、意識が朦朧とする中で寝そべった。

水風呂からここまでの導線が意外と長く、学生時代の校舎周り1週くらいには感じた。3月の風は甘く冷たかった。人工的な鈴虫や鳥の音がスピーカーから聞こえる。

うっしゃ!次こそバズーカに勝つ!と気合いを入れてリクライニングチェアから飛び起きた。
30分のバズーカロウリュに合わせてサウナへリベンジしに向かった。

サウナに入って3分くらいしたあと、左右にあるストーブの左側のストーブに、ジュウウと水が降り注いだ。
スポットライトに照らされており、みんなの注目が集まる。まるでボーリングのムーンライトである。これだけだと心地の良い湿度なのだ。

だが、そのあとバズーカが我らを襲う。

「ボオオオオオオ」と、静かで低音な音が鳴り始めた数秒後、熱波が我々を襲う。上段に座っている人たちが、逃げるように退出していく。
待って!やばい!死んじゃう!と、今まで30年間経験したことのない熱波が私を包み込んだ。
しばらく耐えたが、やはり背中の汗がケトルで沸かした熱湯をぶっかけられているように伝う。もう、暑いじゃなくて痛いのだ。

退出。

くううう…バズーカロウリュには勝てなかった。ヤワな身体である。

水風呂に首まで沈むと、「ふええ…」と、意図せず萌えキャラのような声が出てしまった。

前にいる親子が、「やばすぎるよ」「やばいよ」と、会話をしていたので、「ヤバスンギますよね」と、思わず割って入りたくなってしまった。

再び意識が忘却されそうな中、わたしは外気浴と言う名の天国を目指してリクライニングチェアによじ登った。リクライニングチェアまでの道のりはシルクロードのように開けていた。

先ほどよりも風が強い。△に立てた足に、直に風が突き立てる。
高校生の時、体育祭の応援団の練習をしていた4月の風の匂いが鼻をかすめる。まだ3月だからか、春に熟していない青い匂いがする。
1セット目よりも長く熱せられていたからか、虫や鳥の鳴き声がもっと意識の遠くに感じた。
それと同時に、肩に鳥がとまって、頬をチュンチュンされるような幻覚も見た。もしかして、チュン太(仮)は天国のおじいちゃんの召使い、、?
なんて思いながら、重い瞼を開けると、膝に猛烈なあまみが浮かんでいた。もう、あまみの擬人化になったのではないかというくらいの全身あまみ人間だ。チュン太はどこかへいなくなっていた。

すっかり身体の芯を抜かれた私は、そのまま軸のないクタクタの身体でお家に帰った。あまみは、帰り道も私を支配して、消えてはくれなかった。

家について速攻缶ビールをプシュっとする。
いつもより喉を流れていく感覚が研ぎ澄まされている気がする。スーパーのお惣菜のレバニラともつ煮が今夜のお供だ。これをサ飯と人は呼ぶのか。

帰り道も寒かった、けれど、なんだか今日は身体の中はサウナと戦った経験値でボウボウと燃えている。八王子の寒さもどこかに蹴散らしてしまった。
肉体的にも精神的にも温まった身体で布団にダイブした。
バズーカロウリュ、今回は戦には負けたけれど、また次回わたしのことを熱くしてくれよ、なんて思いながら0.5秒で眠りに落ちた。

みんな、八王子にはマジアツいサウナがあるぜ。やっぱり八王子はホットな街だぜ。物理的にも精神的にもな。と、誰かは分からないマイホーミーに夢の中で語りかけた。

体中のあまみは、すっかり消えていた。

おしまい


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