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やばいかもなあ、を、ごみ箱に捨てる。

朝、6時。いつもの時間、スマートフォンのアラームで目が覚めた。一度トイレに行って、また寝間に戻り、着替えをすませる。そのあと居間に行き、血圧測定、洗顔、そしてロールパンに野菜ジュースと飲むヨーグルトを混ぜた、いつもの朝食を食べる。

その時、ついテーブルの向かいの席を見た。というより、見てしまった。そして、ため息をついた。少し前からなるべくつかないようにしようと決めていたのにはやくもやってしまった。いつものまずいが栄養のため飲んでいる野菜ジュースと飲むヨーグルトのミックスが、さらにまずくなる。

いつもいるはずのパートナーが、いなかった。

実は今日からしばらく、ひとり暮らしになる。

別に別れるとかそういう深刻な話ではない。職場より出張というか、そういうものを命じられ、今日のまだ朝日も上っていないうちから出掛けたのだ。今(午前9時)ごろは飛行機に乗っているころだろうか。

さらに恥ずかしい実は、を続けると、ひとり暮らしはもう40を過ぎてしばらくたつのに、はじめての経験である。

独身のころは実家暮らしだったし、結婚後もずっとパートナーと暮らしてきた。もちろん繰り返し入院して私が家を離れたことはあったが、その時もパートナーが仕事おわりに見舞いにきてくれた。疲れるから無理するな、と言ったのだが、よれよれの相方をほっとけないのか、必ず寄ってくれた。

だが、今回は期間限定ではあるが、本当にしばらく会えない。まったくのひとり暮らしになる。

さらにさらに恥ずかしい実は、を打ち明けると、数日前からそわそわしてしかたなかった。この数日、夜になると出かける準備をするパートナーを眺めるたび、ああ、もしかしておれ、やばいかもなあ、と思っていた。で、実際今朝目覚めてからっぼの隣の寝床をみて、やばいかもなあ、が現実になるだろうことを実感した。まったくいい年をして情けない話だ。

ひとりの方が気楽なたち、と自分では思っていた。実際、そういう時間がないといらいらしてしまう。しかし、まったくひとりぽつり、と置かれると、こんなにもやばいかもなあ、に支配されてしまった。自分のことは自分がいちばんわかる、はまったくあてにならないことを、今まさに思い知らされている。

だから今、noteもTwitterをろくにみられない。他のフォローさん方のご家族に対する、愛情たっぷりの文章にふれると、やばいかもなあゲージが上昇するのは目にみえているから。もちろんそんな文章のなかには不満や愚痴、あるいはもっと深刻な事情が書かれているかもしれないが、それすらもまだそばに家族がいるからましですよ、とやさぐれたっぷりに思ってしまうだろう。本当に皆様にははた迷惑な話である。ここで謝罪したい。すみません。

そんななか、もうひとつ思うことがある。

やはり自分は、意地でもパートナーより先に死ねないなあ、と。

パートナーは、私よりもずっとしっかりしているが、同時にずっとさびしがりやだ。ひとり暮らしは絶対できない、と、ことあるごとに繰り返してきた(ちなみに私は大丈夫だよねと思っているらしく、実際私もそのつもりだったが、今回そうでないことが証明されてしまった)。

万一がない限り、互いの両親は私たちより先に逝くことになるだろう。それはもうどうしようもない。その後私たちふたりきりになり、老いていく。そしてどちらかが先に逝く。問題はどちらが先か、だ。

もしそれが私が先だったら。パートナーをひとりおいていくことになったら。両親も子供もなく、まったくのひとり。そんななかの暮らしを想像したら。

もうこわくて不安でしかたない。私のやばいかもなあ、どころではない。どうして生きていくのだろう。1日テレビに話しかける毎日を繰り返していくのか。日がないちにち、ぼうっと寝ているのか。そんな風景はもう恐怖にちかい。

今から彼女の親友ふたりに、おれが死んだあとはどうかよろしく、なんなら一緒に住んでほしい、と頼まねばならないかもしれない。ふたりとも独身だから、このままひとりを続けてくれ、と、わがままを承知で土下座しておかねばならない。

それを考えると、私のやばいかもなあ、など、ごみみたいなものだ。さっさと燃えるごみの日に出さねばならない。少しでも長く生きてパートナーを見送り、私がひとりになる覚悟を今からからだの芯にたたきこまねばならないのだ。私がひとりテレビに話しかける日々を耐えるために…。

と、ここまで書いて、自分にあきれている。どちらが先に死ぬとか考えるより、まずなにより彼女が役目を終え、無事に帰ってくることを願うべきだ。そのあとのサポートをしっかりして、家をなるべくきれいに保ち、なんの心配もなく帰宅できるようにするのが、とにかくの役目なのに。どちらが先に逝くとか、なにを考えてるのか。

第一、万一私が先に逝っても、ようやくじゃまなのがいなくなってせいせいしたとばかりに、友人たちと羽を伸ばすかもしれないじゃないか。それなら、本当になによりだ。なんなら今からでもパートナーには…。

だから、よけいなことは考えるなというのに。ほら、洗濯が終わった。次の洗濯をしなければ。午後からは携帯ショップに行かないとまずいんだろ。

だからはやく、やばいかもなあ、は、ごみ袋にまとめねばならない。



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