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沖縄から貧困がなくならない本当の理由 感想

普段は、自己啓発やビジネス本が中心なので、他のジャンルも読もうと思い、手に取ったのが本書「沖縄から貧困がなくらない本当の理由」です。私は愛知県生まれの愛知育ちで、沖縄では「ないちゃー(沖縄県民以外の人)」と呼ばれます。

本書を読んでいくと沖縄の貧困問題について、詳細に分析された内容が綴られています。基地問題、じゃぶじゃぶに投入される補助金、同調圧力が強い社会、沖縄企業の問題など、様々な要因から貧困の根本原因があることが分かります。

沖縄の問題については、政治色が強く敏感な問題が多いため、「ないちゃー」の私が触れていいか迷いました。しかし、沖縄の貧困問題は大きな視点でみると、海外から見た日本全体と同じであると本書で結論付けられています。私はその結論を読んで「確かにそうだな」と思い、当事者として感想を書くことにしました。

readyfor.jp

なぜ最も援助を受けている地域か、最も貧困なのか

沖縄で野火のように広がった基地反対運動。これに対してなされた政府主導の強烈な「火消し」の多くは、目に見えない経済援助の形をとった。そして、それに呼応するように、1995年以降、沖縄は目覚ましい「経済発展」を遂げた。
(中略)
このように、沖縄の経済発展には、ことごとく基地経済と(ときには過剰な)援助の影がつきまとう。もし、1995年の基地反対運動が熱を帯びていなかったら、普天間飛行場の移設問題が浮上していなかったら、

・2000年のサミットは沖縄で開催されていただろうか?
・首里城は世界遺産になっていただろうか?
・新2000円札の表面は守礼門だっただろうか?
・そもそも2000円札は発行されていただろうか?
・沖縄自動車道や那覇空港は今ほど整備されていただろうか?
・沖縄のリゾートの価格帯は、現在のような水準だっただろうか?
・那覇空港の発着便は、現在の水準にまで激増しただろうか?


このように考えた場合の基地依存型経済の規模は「5%」どころか、県民総所得の相当希望を占めると考えるべきだろう。正確な統計は存在しない。かなり乱暴な私の感覚では、少なく見積もっても県民総所得の25%前後が順当な水準ではないか。先に述べた援助の全てがなかったらと想像すると、ひょっとしたら50%に近いのかもしれない。

そうだとすると沖縄県庁が主張する「5%」の10倍である。

しかし不可解なのは、これだけの経済援助を受け、「経済発展」を遂げている沖縄が、日本最大の貧困社会だと言うことだ。なぜ、日本で最も援助を受けている地域が、最も貧困なのか?これは問いの前提に誤りがあると考えるべきではないだろうか?

経済援助は、そのやり方次第では、貧困を解消するよりも増幅させる可能性があるからだ。

沖縄における貧困の直接の原因は、労働者の所得が圧倒的に低いことにある。労働者の平均収入は全国最低水準で、就労者のおよそ18%が100万円未満、47%は200万円未満の年収しかない。

沖縄の所得の低さは、非正規雇用者の圧倒的な多さが直接の原因の一つだ。沖縄県内の非正規雇用率は全国で最も高い43.1%。労働者が仕事を探そうにも、正規雇用の求人数は全体の約3割しかない。有効求人倍率が1.0倍を超えていても、それは非正規の求人が多いためだ。正規雇用倍率は0.58倍しかない。全国の正規雇用倍率は1.21倍だからその約半分だ。

本書より抜粋

沖縄に非正規雇用者が多い理由は、国が沖縄に本拠を置く企業に対し様々な税制の優遇措置をとっていることが大きいと、著者は指摘しています。

その代表例が酒税軽減措置です。沖縄で生産・販売される酒類について、泡盛は35%、ビール等は20%の酒税減免措置が実施されています。そのため、本土の大手メーカーよりも安価で販売でき、多くの消費者を引き付けることができています。

ryukyushimpo.jp

最初から価格面で圧倒的な優位が取れるなら、商品の品質を上げライバルに打ち勝とうとする努力をしなくなります。今までと同じものを作るだけで売れてしまうわけだから、経営陣は税制の優遇措置が続くことに意識を集中してしまい、事業力を付けようと考えません。

その結果、仕事は単調な作業になり、低賃金で雇える非正規が大半を占めてしまいます。会社の長期的な成長のために必要な人材(正社員)は必要がないのです。

これは本土の企業に対しても同じことが言えると思います。高額報酬で優秀な人材を雇うよりも、コストカットを優先し外国から安く雇える人材をつれてくることです。短期的には人手不足の解消やコストカットで業績は良くなるかもしれませんが、長期的には会社の成長に繋がらないと考えています。

私の会社の事例ですが、技能実習生として外国人を2名雇用しています。彼らはやる気が非常にあり、とても優秀です。仕事を覚えるスピードも早いです。しかし、制度上3年で国に帰ってしまいます。(延長もできるが、帰ることを希望している)

その為、新たに技能実習生を前よりも多く雇う予定になっていますが、私的にはこれで良いのか疑問に思っています。数年ごとに入れ替わる人材は、教える側の立場からしたら、かなりしんどいです。だからこそ、コストを掛けてでも国内から優秀な人材を雇って欲しいと考えています。

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会社の成長にコストを掛けないことは、企業や社会全体が衰退していきます。これは、沖縄も本土(日本全体)も同じことですよね。

日本の端っこから、日本がよく見える

本書では、これまで「沖縄の問題」と言う前提で議論してきた。すでに多くの読者は気づいていると思うのだが、実は、そのほとんどのすべての議論は、日本社会全体に当てはまる。

同調圧力があるのは沖縄だけではない。本土社会にも画一を好む強い圧力が存在する。「出る杭は打たれると言う格言」は、日本社会の代名詞のようなものだ。日本社会は、新しいことへの挑戦に不寛容で、自分を生きるよりも社会の枠組みを、創造よりも前例を踏襲する社会風土を守り続けている。

日本の長時間残業は、上司や同僚よりも早く帰れないと言う同調圧力が大きな原因だ。沖縄の労働生産性は日本最低水準かもしれないが、日本の労働生産性こそ、先進国の下位から数えた方が早い位だ。

日本人は、仕組みや製品を整然と作り上げる事は得意だが、突飛な発想や、とんでもない失敗から成果を生み出すような、強い個性を許容する寛容さに乏しい。現在の日本経済が苦しんでいるのは、日本社会がイノベーターを育ててこなかったからだ。

成功することよりも失敗しないことを優先しがちな日本社会では、イノベーションは起こりにくい。イノベーションが生じなければ、生産性は上がらず、国際競争力が低下し続ける。そこで、リストラを行い、非正規雇用を増やして大幅に人件費を減らし、かろうじて企業利益を確保しているまるで沖縄問題のデジャブのようだ。

本書より抜粋
www.toyo.ac.jp

この感想文では企業に関することを中心に、沖縄と日本全体の問題について書かせていただきました。本書では、他に沖縄県民の人間関係についても、深く考察し問題を提起しています。この部分については、私の同僚に沖縄出身の方がいるので、理解できることが多くありました。

しかし、人についての事は「ないちゃー」の私が触れるには敏感な問題すぎたので割愛させていただきました。気になる方は、本書を読んでみてください。沖縄だけの問題ではないことがよくわかると思います。

感想文を読んでいただいてありがとうございました。


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