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東西かけるさんの脳内改革番外編

ここは私達の宿主、東西かけるさんの脳内。宿主さんはいわば会社の社長のようなもの。宿主さんがこの体を使ってやりたい事を手伝うのが脳の役目。

間違った方向に行かないよう干渉もするが最終的には宿主さんの意志を尊重する。宿主さんがハッピーなら私達もハッピーなのだが。


「宿主さん、いつまでこんなことしてるんでしょうね?」

前野さん(前頭前野)がモニター画面を見てつぶやく。宿主さんは朝からマンガ喫茶に入り浸りだ。

「会社辞めちゃったから仕方ないですよ。宿主さんが楽しみにしてたからいいじゃないですか」

「そんなこと言うけどこんな生活は宿主さんに良くないよ」

マンガを読む画像処理は後頭葉さん担当だ。宿主さんが創造性を発揮しないと前野さんの活躍の場はない。

「ストレス解消もいいけどさあ、宿主さんが新しいことを始めないと体がさび付いちゃう」

机に両肘をつき後頭葉さんを羨ましそうに眺める前野さん、よっぽど時間を持て余しているらしい。

「宿主さんが会社を辞める直前はかなりすり減っていたじゃないですか、もう回復したんですか?」

「だからよ。絵を書くとか楽器を演奏するとか、せめて誰かとおしゃべりぐらいしてくれないと気晴らしにもならないわ」

働いている時と違い宿主さんの活動はかなり狭まった。本人は何とも思ってないようだがここは前野さんや宿主さんのためにもがんばってみるか。

「それなら宿主さんがやりたいことを記憶の中から探してみませんか?」

「最近の情報ならわかるけどどうやって探し出すの? 脳内は条件検索が難しいのよ」

前野さんが首を傾げる。宿主さんの記憶は脳の海馬さんに送られ、そこから必要な分を長期記憶として前頭葉さんや後部帯状回さんに振り分けられる。

「簡単です。宿主さんに判断してもらいますから」


それから三日後、相変わらずマンガ喫茶に入り浸る宿主さんの脳内で実験は行われた。

「前野さん、用意はいいですか?」

「いいわよ」

マンガのある場面に共感した宿主さん、額中央で副交感神経が働き涙腺が刺激された。その瞬間を利用して記憶の糸を辿っていく。そして長期記憶が入った部屋を開け灯りをつける。

宿主さんが今までうれしいと感じたこと、悲しいと感じたこと、出来た事、出来なかった事がある。中には何故こんなものがと思う記憶さえあったのだが部屋の灯りをつけた途端宿主さんが大きく反応する。

「前野さん、どうですか?」

「それらしいものがあった」とモニター画面をみながら満足そうに笑う前野さん。宿主さんはティッシュを取り出し鼻をかみ始めた。

「マンガ喫茶から追い出して宿主さんをさっさと働かせるわよ」と前野さんが指をポキポキ鳴らす。

宿主さん、どうやら楽隠居するにはまだ早いようです。

(1111文字)
<終わり>


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