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私たちは”今”を繰り返す リバー、流れないでよ【映画感想文】


あらすじ

舞台は、京都・貴船の⽼舗料理旅館「ふじや」。仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたところを⼥将に呼ばれ仕事へと戻る。だが 2 分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川を前にしている。「・・・・?」ミコトだけではない、番頭や仲居、料理⼈、宿泊客たちはみな異変を感じ始めた。ずっと熱くならない熱燗。なくならない〆の雑炊。永遠に出られない⾵呂場。⾃分たちが「ループ」しているのだ。しかもちょうど 2 分間!2 分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう。そして、それぞれの“記憶”だけは引き継がれ、連続している。そのループから抜け出したい⼈、とどまりたい⼈、それぞれの感情は乱れ始め、それに合わせるように雪が降ったりやんだり、貴船の世界線が少しずつバグを起こす。⼒を合わせ原因究明に臨む皆を⾒つつ、ミコトは⼀⼈複雑な思いを抱えていた―――。

Filmarks

感想

とても良い映画だった。
肩の力を抜いてスッキリと見れるようで、緊迫したシーンのスリルも登場人物たちの葛藤もあり、それらを全ては描かないワンカット故の臨場感と語りつくさなさも、舞台も撮影方法も限定したことによる予算面や演出面のチープさをクリアするクリエイティブも、完璧に近い邦画だったと感じた。あと雪のロケーションが抜群に良い。貴船行きたい。

ちなみに私は普段邦画をほとんど見ない。
たぶん前回映画館で見たのは怖いもの見たさで見た鋼の錬金術師の実写版1作目だ(私的にはそこまで悪くなかった)
年に1本観るか観ないかくらいで普段は積極的には観ない人だ。あしからず。だからなんだという話でもあるが一応前提として書いておく。

制作のヨーロッパ企画のことは知っていて、というか長らくインターネットにいるとたぶん一度は目にしたことがあるであろう集団で、今の流行(?)でいうオモコロのような、謎のセンスでネット上に珍作品を大量に上げている人達だった(過去形なのはFlashのサービス停止と共にほとんどが観れなくなってしまったため)。独特なセンスやゆるいやらカオスやらな雰囲気を持つ作品の数々は一定のファンを獲得している、という認識だった。

近年だとVtuberの委員長こと月ノ美兎が実況動画をよく上げていたので、そこから知った人も多いだろう。私も懐かしんで動画を楽しんだ口だ。残念ながらFlash Playerで作られたそれら数々の作品達はリメイクされたもの以外遊べなくなってしまったのだが、探せばどうにかなったりもするので気になる方はネットの海を探ってみて欲しい。もしくはYoutubeで委員長の動画を観たら良い。

で、映画の話だ。

もう公開から2ヵ月近く経っているのでネタバレも許してという形で書いていくが、いつも通り本noteはネタバレを含むのでまだ未視聴の方はぜひ映画館に足を運んでもらいたい。

まずタイムループ物だということはわかっていた。それが「いつから」「なぜ」起こりループ中に「様々な出来事」があることで「どうなる」のかが気になって観に行ったのだが、もう大満足。すべて満たしてくれた。超日本的にお客様対応をしてくれる旅館の方々も、理系料理人が解決していくのも、勝手に喧嘩はじめて仲直りしてる二人も、作家と編集者も、ミコトとタクの衝突もそれぞれがループ中の人々の心理状態を表すためにそれぞれの役割を持っていて、まさに期待通りと言う他なかった。

ループが始まり、何が起こってるんだと戸惑い、徐々に順応していくかに思われたが焦りとストレスと抱えていた問題から起こる軋轢、ループ中だからこそ出来る生死の扱い、ミコトとタクの逃避行で妙に笑えてくる一連のシーンと突然のシリアス展開で現実に引き戻される感覚、それでいて必要以上にグロ展開にはならず、解決策だと思っていた行動が違った時の肩透かし感、そこから本当の解決策が見つかってのループ突破RTA、見事だ。家族で観れる。

なによりもフォーマットが素晴らしい。同じ設定、違う舞台、違う時間軸、違う国でどれだけでもやれる。実にヨーロッパ企画らしい破壊的なオチもデウス・エクス・マキナ的に物語をまとめてくれる。実際のヨーロッパ企画の劇なりを観に行ったことは無いので、どういうメディア展開をする方々なのかは存じ上げないのだが、この作品は、舞台版、ドラマ版、海外版と波及できるポテンシャルをひしひしと感じた。

もちろんループもの作品は世の中に数ある。「シュタ…」だったり「All you…」だったり(今更ながら新鮮な出会いを奪いたくないので濁す私)
タイムループ物は面白い。だがそれゆえに難しい。なぜ起きるのか、なぜ自分たちなのか、起きたことによって何が変わってしまうのか、基本的にタイムループの原因こそがオチになるし、少し掛け違うだけでチープになってしまうし、矛盾点や違和感がでる。
そんな中でこの作品は本当にフォーマットの完成度が高い。圧倒的に真似がしやすい。タイムループ中における関係性の変化が主題であり、タイムループの原因は提示さえしてしまえば正直なんだって良かった。
この作品だけでもこんなシーンが欲しかった!こっちの視点も見たかった!というのが大量に出てくるが、それはもうこの作品ではミコト視点での貴船を舞台にした作品、それが「リバー、流れないでよ」だったとして良くて、他にいくらでも派生作品が作れてそちらで欲しいシーンと出会えることがあるだろう。

個人的にはもっとRTAやってるシーンが観たくて最後の解決のためにショートカットルートを開拓したり、動作の完全な効率化を図ったりみたいなシーンが欲しかった。タイムマシーンにビールを注ぐシーンで最後に零していたが、零したことで間に合わなくなった回があって、最後だからこそ完璧にテキパキとした、全員が一切無駄のない2分間、みたいなのが観たい気持ちもあるが、さきほども書いたように今回のこの作品でそれは観れなくてもいい、失敗した回はミコトが最後に川辺でサボっていた回までの「間」にあったのだろうとは容易に想像できたし、それ以上はあったらあったで蛇足だったかもしれない。

これらは文句や物足りなさではなく、作品の持つポテンシャルの高さだ。それだけフォーマットが優れていたということだ。実に面白かった。公開時から気になってはいたのだが、最近引っ越し等もあって見逃していて、どうしようかな、まだやってるのかなと頭の片隅で思っていたら、たまたま昨日会った友人と映画の話になり、明日観に行けるじゃん、じゃあ行こうよって急遽予定を立てて観たのだが、観れてよかった。一緒に行った友人は結構な旧友なので、雑炊食って喧嘩してた二人が少しだけ私たちに重なって見えて勝手にエモくなっていた。

タクの閉じた世界に感じる焦燥感も今だとよくわかる。未来はどうなるかわからない。でも今のままだと変わらない。10年後に悔いる過ごし方はしたくない。残酷にも優しく時間は流れ続ける。現実の時間は”今”の連続だ。過去に戻れないし、未来は延長線上にしかない。何度も何度も繰り返して、それがその瞬間での本当に最適解だったかを見極めることはできない。
いつまでも続いてほしい時間、本当はしたかった話、丁寧に悩みたかった問い、焦って出した結論、どんな失敗も成功もただ受け入れていくしかない。
それをこの作品ではちょっとだけ”長い今”を過ごさせてくれた。受け入れる未来を選ばせてもらえた。流れて欲しくなかった時間が、流れて欲しい時間に変わった。
そして川は流れ続ける。その流れの中に、悲しみや怒りもあれど喜びや楽しさを見出しながら今を過ごしていきたいと、そう思う。

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