オカムラ初のゲーミング家具「STRIKER」に込められた思いとは?開発ストーリーと製品のこだわりに迫る
2021年1月、オフィス家具メーカーのオカムラが、ゲーミングファニチュア「STRIKER(ストライカー)」を発売しました。
メインとなるチェアは赤・青・黒の3色展開で、ほかにも昇降デスクやシェルフ(収納棚)などのラインナップがあります。
これまでBtoBのマーケットを中心に数多くの製品を送り出してきた同社ですが、ゲーミングファニチュアを開発したのには、どんな背景があったのでしょうか。
株式会社オカムラの浅野さんと新行内さんにお話を伺いました。
(写真左)マーケティング本部 パブリック製品部 浅野 裕一(あさの ゆういち)さん、(写真右)デザイン本部 プロダクトデザイン部 第五デザイン室 新行内 弘美(しんぎょううち ひろみ)さん
老舗オフィス家具メーカーの挑戦。初のゲーミングファニチュア開発に込めた思い
── 今回、ゲーミングファニチュア「STRIKER」シリーズを開発した背景を教えてください。
浅野:近年、eスポーツ市場の規模が急拡大しており、競技人口も非常に増えています。プロの大会が開催される専用施設や、ゲーム配信をするプレイヤーの自宅などで、ゲーミングチェアが使用されることが多くなってきました。普段あまりゲームをしない人でも、一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
今後eスポーツがますます普及していくなかで、長時間ゲームをしても疲れにくく、より対戦に集中できる環境を整えることが重要になってきます。チェアをはじめ、長年オフィス家具の研究を重ねてきたオカムラがゲーミングファニチュアの市場に参入することで、より快適なプレイ環境を実現し、ゲーム成績の向上に貢献できればと考えました。
また、コロナ禍で長時間の在宅勤務をしているビジネスワーカーにも使ってもらえたら、という思いもあります。
── STRIKERシリーズの目玉はやはりチェアかと思うのですが、どのように開発を進められたのですか?
新行内:まずは、一般的なゲーミングチェアに長時間座ってみることからはじめました。私も浅野も、普段あまりゲームをすることがないので、ゲーミングチェアの座り心地についてはあまり詳しくなかったんです。よりリアルなプレイ環境を再現しようと思い、ゲーム用のPCやキーボード、マウスなどの周辺機器も揃えました(笑)。
実際に座ってみると、座り心地はいいのですが、1日10時間近くゲームをするとなると肩が凝ったり腰が痛くなってしまい、身体への負担が気になりました。
浅野:そこからチェアの開発に取りかかったのですが、まずはゲームをいくつかのジャンルに分け、特徴的な操作姿勢を分析したんです。当初9つに分類された操作環境は、最終的に3つに集約しました。
たとえば格闘系の短時間バトルであれば前傾姿勢になり、シューティング系であれば通常姿勢、ロールプレイング系であれば後傾姿勢でじっくりプレイするなど、さまざまな姿勢をとっています。こうしたさまざまな姿勢をカバーできるように、チェアの機能や構造を決めていきました。
オフィスチェア開発で培った知見をフル活用。デザイン・機能ともに、並々ならぬこだわりが
── 機能面では、どんな特徴があるのでしょうか?
浅野:チェアの座面角を変えられるので、前傾姿勢から後傾姿勢までしっかりサポートできるようになっているのが特徴です。これは、オカムラ製品の中でも特に人気のオフィスチェア「Sylphy(シルフィー)」の設計を取り入れています。
オカムラでは、好ましい姿勢で働くことができるよう、長年オフィスチェアの研究を重ねてきました。その過程で積み上がった膨大な知見を、今回のチェアの開発に有効活用することができたのは大きな利点だと思っています。
新行内:特に、体圧分布や背面・座面のカーブにはこだわっています。首や腰のあたりに後付けのクッションをつけると、面ではなく点で支える形になるため、逆に身体を痛めてしまう場合があるんです。
STRIKERシリーズのチェアは、しっかり体圧分布されるような構造になっています。また、座面が柔らかすぎると身体が沈み込んでしまって、姿勢を変えづらくなるので、適度な硬さにすることで長時間の座りにも耐えうる造りにしました。
浅野:一方、あえて削ぎ落としたのはゲーミングチェアによくついている180度のリクライニング機能です。なぜなら、「イスの上では寝転がらない」「意外と使わない」という声があったからです。
リクライニングは休憩中に使うものですが、倒しすぎるとチェアが横転して怪我をしてしまう恐れもあるため、あくまでプレイ中の姿勢に最適化することにしました。
── チェアのデザインは、どのように決めたんですか?
浅野:デザインに関しては非常に悩みどころで、社内でもかなり議論を重ねました。オカムラの従来のオフィスチェアは、いい意味でシンプルなものが多く、背中がメッシュで通気性がある、というのが特徴です。ただ、「仕事用のチェア」という印象だとゲームをするという気持ちに切り替えられない、という声がありました。
「ゲーミングチェアといえば、あのデザイン」というイメージを持っている方も多く、そこからあまり離れてしまうとユーザーに受け入れてもらえない恐れがあるので、デザインやカラーリングは市場に出ている製品に近づけました。
新行内:とはいえ、“THE・ゲーミングチェア”なデザインが自宅のインテリアに合わない、という方もいらっしゃいます。そこで、今回はEXタイプとSDタイプという2つのラインナップをつくりました。SDタイプは、ゲーミングチェアというよりオフィスチェアに近い見た目になっているので、お部屋に馴染みやすいデザインです。
STRIKER SEATING EX(左)/STRIKER SEATING SD(右)
新行内:デザインという観点でオカムラらしさをどう出すかについては、座面や背面の細かな仕様に工夫を凝らしました。
一般的なゲーミングチェアのシルエットは、スポーツカーの座席みたいに肩が張っていたり、腰回りが出っ張っていたりするんです。これは本来、G(重力加速度)がかかっても身体が投げ出されないようにするための仕様なのですが、ゲームをするときは実際にGがかかるわけではないため、逆に身体の動きを規制しすぎてしまいます。ですから、こうした出っ張りを削ぎ落としてフラットにし、身体を保持しつつも動きやすいデザインにしました。
一方、なにかアイコニックなポイントをつけたいという思いもあったので、集中してゲームをプレイできるようにと、EXタイプの頭の部分を張り出してみました。周囲の視線をほどよく遮るため、圧迫感を感じることなく、適度な「こもり感」を実感できます。
新行内:STRIKERのチェアは、通常のものと比べて背が高く大きいです。そのため、サイドの赤いラインを座面から背面につなげて、抜けていくように張り分けしています。これは全体を縦長に見せる効果があり、シャープでスマートな印象を与えています。
また、その帯が背面の上の方に行くにつれてひねられていくのですが、これは造形的に美しいだけでなく、腕の動きを阻害しないように考えられています。
腰が痛いのは、チェアのせいだけじゃない。デスクもふくめ、トータルでゲーム環境を向上
── STRIKERシリーズには、チェアだけでなく昇降デスクや収納棚などもありますよね。
浅野:昇降デスク「STRIKER Swift」は、さまざまな姿勢でゲームをする際にデスクの高さをジャストフィットさせることができます。よりプレイに集中できるようになるため、チェアとあわせてご提案しています。
立ってゲームをやることはほぼないと思いますが、むしろ私たちが注目しているのは、座りすぎによる健康リスクです。長時間同じ姿勢で居続けるよりも、立ったり座ったりして血流を良くすることが重要だとされています。また、姿勢を変えることで気分転換にもなり、より長時間のプレイに集中しやすくなります。
また、ゲーム機器はコントローラーやヘッドセットなど細かいデバイスが多いので、こうしたアイテムを効率よくしまってもらえるような収納棚「STRIKER シェルフ」もあわせて発売しました。
STRIKER Swift(左)/STRIKER シェルフ(右)
── STRIKERシリーズを発表して、反響はいかがでしたか?
新行内:やはり、チェアの反響が一番大きいと感じましたね。赤や青のカラーリングが人気のようですが、黒も非常に好評です。実は、ところどころに違う素材を用いているので、オールブラックでものっぺりした印象にならず、同色でまとめることによって素材感のコントラストが逆に引き立っています。
── 今後、STRIKERシリーズを通じてオカムラさんが実現したいこと、目指していることを教えてください。
浅野:日頃からよくゲームをされる方は、チェアやデスクを買う前に、まずはPCやキーボードなどのハードウェアを揃えることが多いんです。一般的にはまだ、チェアやデスクは贅沢品、というイメージが強い。「ちゃぶ台に座椅子でゲームしてます」なんて方も、結構いらっしゃるんですよ。
ただ、私たちは、プレイ時間が長ければ長いほど身体を支えるプレイ環境が重要になると思っています。コンマ1秒の世界で成績を争っているプレイヤーの皆さんのために、少しでも快適にゲームできる環境を整えたい。そう強く願っています。
新行内:「腰が痛い」というお悩みを抱えている方が非常に多いのですが、腰痛が起こるのは、実はチェアのせいだけではありません。デスクの高さが合ってないと、どれだけいいチェアを使っても意味がないんです。
好ましい姿勢を維持できるチェアとデスクを選び、セットで使うことがいかに大切か。それを一人でも多くの方に知っていただき、快適なゲーム環境をつくっていくことが、オカムラの使命だと思っています。今後も引き続き、家具選びの大切さを発信していきたいですね。
interview by Kagg note編集部
株式会社オカムラ
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