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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第14話「王国会議」

 リフニア国ヘイブン宮殿内部、会議室。リフニア国の国王オーバンは、もう会議をはじめていた。僕という王子を差し置いてはじめるとは、父上は相変わらず僕に似て傲慢で自分勝手だ。お付きの者に手押し車椅子に乗せられてようやくやってきたというのに。

 僕を見て父上は話を遮られたという、あからさまな顔をする。

「もう横になっていなくていいのか、エリク」という言葉も形だけだ。

「父上、僕の心配はいりません」

 父上は鼻を鳴らす。僕が勇者を拷問したのが全ての始まりだと、腹を立てているわけだ。

「それよりも、早く、あの情欲まみれのうじ虫勇者を捕まえて下さい」

 勇者の処分についての会議に僕をのけ者にするなんて言語道断だ。

「私の手抜かりだと言うのか? 詠唱団(えいしょうだん)はこの国の最高戦力の一つだぞ。それに言葉に気をつけろ。隣国ノスリンジアのエルマー王も、お見えになっておるのだぞ」

 ふん。隣国が何だ。マルセルの兄という騎士団長でも勇者に簡単に敗れたではないか。父上だって、勇者のことを快く思っていられるはずがないというのに。何を遠回しに口を慎めと言っているのか。

「父上も、本当は勇者を拷問したかった一人では?」

 はっきり言って僕の拷問趣味は、父上からの遺伝だ。母上を夜な夜な折檻(せっかん)していたのを、物心がついたときから見てきた。それである日、母上は拷問部屋につれて行かれてから出て来なくなった。あ、母上死んだなと、幼心に思ったことがある。

「エリク、口を閉じられないのか」

 僕が今度は鼻を鳴らしてやる番だ。どうやら、隣国の幹部たちも何のやり取りかと不穏な雰囲気を醸し出す。ふん、明るい話題など何一つないのだから黙って見ていろ。両国共に最高戦力である王国騎士団長を失い戦力を削られるという大きな痛手を負っているのだ。怒らずにいられるそちらの王がどうかしている。

「父上、失礼しました。ですが、ノスリンジアの皆様方も僕抜きで話し合っておられたみたいですね」

 父上は僕がノスリンジア国を手玉に取ろうとしていることに気づいて睨んでくる。こんなことでいちいち怯んでなどいられない。

「そちらの騎士団長も勇者により処刑されたとか。僕もマルセル姫の実兄を失い、非常に心苦しい」

 ノスリンジア国の幹部が、僕に冷ややかな目線を送って首を突っ込んできた。

「そちらの詠唱団は、グスタフがやられたときに何もしなかったということはないのか?」

 これには僕より先に父上が抗議した。

「先(せん)の作戦は先ほども説明した通りだ。勇者に空間隔離魔法は効かなかった。束縛魔法も効かない可能性もある。生け捕りは非常に困難な状況であった」

 父上は上手く説明してくれたものだ。そうとも、勇者を殺してもよかったが、僕はあのうじ虫勇者を飼いたいんだ。拷問し続けて飼いならしたいんだよ、父上。だってこの僕にした仕打ちは、とんでもないことじゃないか。呪い続けてやってもいい。

オペラ座から地下牢でのできごとの間、父上は急用で他国を訪問していて不在だった。父上も留守中に国家が揺らぐようなできごとが立て続けに起こってご立腹で、勇者を拷問したいに違いない。でも、父上、僕の方が先なんだよ。僕こそが勇者を拷問していい唯一の人物なんだよ。

 しかし父上の説明をもってしても、ノスリンジア国の幹部はまだ、僕への追及をやめない。

「エリク王子は勇者の標的となる勇者の元仲間の居場所を、拷問によって洗いざらい話したそうではないか?」

 顔が赤らむのが自分でも分かった。老人どもに馬鹿にされるのがしゃくに触る。お前らが、あの勇者の拷問に耐えられるか? 僕が耐えることができたのは、国家回復師のマルセルの回復魔法の加護があったからだ。彼女と寝た僕には、ずっと彼女の愛による魔法がかかっている。苦痛も一時的に和らぎ、いざというときのために体力の温存ができる。

 同じくマルセルと寝たというのに、勇者キーレは加護を受けていない。あのうじ虫勇者がマルセルに心から愛されていない証拠だ。

「ふん。何を焦っているのやら。勇者の元仲間が何人死のうが知ったことじゃないだろう? 恐らくもう、議題に上がったか知らないが、問題があるとすればアデーラだ。エルフのアデーラが勇者の手によって処刑されたらリフニア国の川は毒で汚染される」

「その話はもう議題に上がりましたよ。自国のことは自国で解決すればよいのではないかと」

 生意気なノスリンジア国の幹部め。シャンデリアを反射する卓上を思わず殴りそうになる。隣国ノスリンジアとの終戦協定を破って、再び戦争状態に持ち込んでやろうか。

「我が国が毒の沼地を開拓してまで国土を広げた理由を、何故かとお考えになったことはないのか? 我が国とノスリンジアは和平を結ぶまでは敵国。追いやられるように譲り受けた領土がほぼ、人の生きていくことのできない毒の沼地。和平を結んでからも、領土に関して我々が不服を申し立てないのは、森のエルフから浄化された川の水を引き入れてもらっているからだ」

 その気になれば戦争をするという意味で伝えた。過去に敗戦を喫したが、現在の兵力ではリフニア国が勝ることはノスリンジア国もよく分かっていることだろう。ノスリンジア国王エルマー王は高齢で、ふむふむと曖昧な返事しかしない。この老いぼれじじいめ。

 リフニア国の国家魔術師の一つである詠唱団(えいしょうだん)も、元を辿れば毒の沼地を開拓するときに結成された組織だ。人の住まうことのできるように土地を耕し、毒を抜き取るのに三年。だが、水はない。

 飲み水はなく、井戸を掘ろうものなら、出てくるのは毒。森のエルフからの川を浄化するという提案がなければこの国は建国すらできなかったのだ。しかし、森のエルフは住処を移して残ったのはアデーラただ一人。アデーラは勇者とともに魔王を倒した後、必ず戻るという契約通りに舞い戻ってくれた。つまり川の水の管理は彼女ただ一人が行っている。

「つまり、アデーラが処刑された場合、リフニア国は我が国ノスリンジアに戦争をけしかけると?」

「僕としては極力、それを避けたいと思っているよ」

 僕の傲慢な物言いに父上は少しばかり、頬を緩めた。父上も戦争好きだから当然だ。だけど、両国にとって戦争にメリットはない。騎士団長不在の国同士で戦争をすることは馬鹿げている。

「アデーラ救出というわけですな」

 今頃分かったのか、エルマー王。

「しかし、アデーラが勇者に処刑されるのは時間の問題では?」とノスリンジアの幹部。

 なかなかの手詰まり感だ。くそ、あの憎き情欲うじ虫勇者め。何かよい案はないかと父上も考えあぐねいている。そうだ、勇者の標的は分かっている。楽にアデーラ処刑を阻止する方法があるじゃないか。

「勇者の標的がアデーラならば、標的を嫌でも変えざるを得ない状況を作ればいいのでは?」

 僕の提案にどよめきが走った。父上が唖然(あぜん)として僕を見返す。

「どういうことだエリク」

「父上。勇者の標的はアデーラ一人ではないのです。わざわざ処刑する標的を教えてきたのが勇者キーレの運のつきですよ」

「もったいぶらずに話せ」

「勇者キーレより先に奴の標的の元仲間を公開処刑する。そしたら、あいつ。獲物を横取りされたと怒り心頭に、のこのこ出てくると思いますよ」

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