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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第15話「森のエルフのアデーラ」

 アデーラは俺が最初に旅をしたときにリフニア国に一番近い森に住んでいたから、ドロテの次に仲間になったんだ。森のエルフが何でアデーラ一人だけで、残って川を守っていたのかなという疑問はまあ、美人だから仲間にしてから聞けばいいやと軽い気持ちで森からつれ出した。

 アデーラの本性については本人の口から、恥ずかしげもなくつらつらと話すのを聞いた。アデーラがほかのエルフを全て追い出したんだ。

「私が一番きれいで、一番美人。ブサイクには消えてもらおうと思ったから」そう言っていた。

 アデーラは確かに美人だから俺は特に問い詰めなかった。リフニア国に流れる川の浄化は、アデーラが生きている限り自動的に清められるらしいから魔王討伐まで、俺の回復役として同行してくれた。まだ、マルセルを仲間に迎え入れる前で、俺はアデーラの回復魔法小に頼りきり。だから愛の証に、毎晩寝るときには彼女の白い髪と俺の銀髪を比べてみて、お互いに撫(な)で合ったりした。

 決まって彼女は「私が一番美人かしら」と自慢げに訊ねてくる。俺はいつもおうむ返しに、「当然。お前が世界で一番に決まっている」と強調して答える。

 まあわざと背伸びした臭い台詞を使うと、ドロテが決まってそっぽを向いて興味なさそうにしていたけど。だって、俺とアデーラはあっという間に恋仲になったからな。で、マルセルも隣国ノスリンジア国に寄ったときにマルセルの屋敷で寝取ったら、サクっと仲間になった。

 そのうち女三人と野宿したり宿に泊まったりすると、ある日の俺は思った。マルセルが一番小さくてかわいいって。それで、結果的にはアデーラをふることになり関係は凍りついた。氷が砕けたのは、仲間を順調に増やして俺を含め七人で協力して魔王を討伐した後のことだ。

 ああ、思い出したくもないけど。俺が捕まった日のことを振り返るときが来てしまったなぁ。

 魔王討伐後、それぞれが帰路についた頃の話。俺が投獄されるXデー。
リフニア国内で祝いごとや凱旋パレードも終え、各国の訪問も一通り終えて仲間六人は各々の道に別れることにしたんだけど、マルセルとアデーラだけはずっとついてきてくれていた。

 陽の落ちる夕刻、アデーラがエリク王子が俺に話があるので宮殿に来るようにと、言づかっているとそっけなく言った。リフニア国のヘイブン宮殿には自由に出入りが許されていたので、俺とアデーラは衛兵に会釈して堂々と廊下を歩いた。

 マルセルは王子に紅茶を呼ばれるとかで数時間前に先に宮殿に入っている。マルセルはエリク王子とよく午後のひとときを過ごすのが日課になっていたけれど、俺は夜に仲間と順番に寝ることができたらそれでよかったので、何も言わなかった。

 マルセルは俺に一番優しくて俺が誰と寝ても文句を言わなかったし。勇者とはそういうものだと認識してくれている。ちなみに俺の仲間で一緒に寝たのは回復師マルセル、女格闘家ドロテ、エルフのアデーラ、魔女ヴァネッサ、踊り子メラニー。

 廊下を歩くときにアデーラが、事実を再確認する裁判官のような厳しい口調で告げた。

「これまで一緒に冒険してきたのは、勇者が私のことを一番の美人と言ってくれたからなの、分かってる?」

「うん。確かに勧誘したとき言ったけど」

 このときアデーラはすでに、俺のことをキーレと呼んでくれなくなっていた。でも、俺に未練があるからかなって、アデーラの扱いに困ってずっと放置していた。夜には未だに聖母の優しさで包んで寝てくれるし。

「でも、あんたは、誰よりも多くマルセルと寝た! マルセルと寝たんだ!」

 回数の問題なのかな。平謝りしてもアデーラの豹変した態度は変わらない。俺がもうマルセルのことしか考えられないということは、マルセルが仲間になった瞬間から分かっていたことだろう。

 夜はちゃんと順番に会ってやってるんだぞ。心に留まるのはマルセルのみだけど。冒険は辛いことの方が多く、女癖の悪い俺をマルセルだけは全て理解して許してくれる。アデーラは俺に「愛しなさい」としつこくてしつこくて。

 ぼそっとごめんと言うと、アデーラは俺のことをあざ笑って、ヘイブン宮殿のエリク王子の待つ王室に招き入れる。

「ま、許してあげる」

 これが嘘だった。王子の部屋では、マルセルが王子と肩を並べて俺を待っている。二人ともはにかむような、お互いに目のやり場に困って頬を赤らめている。アデーラが悠々と部屋の中央に進み、マルセルに目くばせする。それから、エリク王子に心を込めてひざまづき、王子の華奢(きゃしゃ)な白い指に敬意の接吻を施した。

「私がマルセルをエリク王子に紹介してあげたの。だって、勇者の心に私はもういないんでしょ?」アデーラの声に、俺を刺すような毒がある。え、今のどういうこと? 分からないことはとりあえずマルセルに聞けば何でも教えてくれるはずだ。

「なあ、マルセル? 王子とどうなってんの?」

 見を閉じるマルセル。マルセルは俺の目の前でエリク王子と長い接吻をした。一分ほどに感じられた。二人の唇が離れた瞬間の沈黙が地獄だ。西日が落ちたかと思うほど、視界が暗く霞んだ。マルセルの代わりにエリク王子は、俺に照れ笑いをする。

「いやー、マルセルに告白したんだ。そしたら何日かして、承諾をもらえてね。勇者キーレに真っ先に報告しないといけないなと思って。君たちは僕よりつき合いが長い。当然祝ってくれるよね?」

 告白? 王子は俺とマルセルが恋仲だったことを知っている。よ、横取りじゃないか。いや、待て。さっきアデーラが紹介したとか言った。何かの間違いであって欲しいと顔に出したままアデーラを振り返ると、美人至上主義者が片目を歪めて顔を崩して醜く笑っている。

「エリク王子に相談したの。私は私のことを眼中に入れてくれない勇者なんかどうでもいいって。そしたら、王子は王子でマルセルと二人きりになりたいってずっと思ってたと言うのよ。不思議よね。勇者一人を除いて、三人の意見が一致したの。勇者が邪魔だって」

 そう言ってエリク王子と裏で組んでいたアデーラは、俺を取り押さえるべくリフニア国の衛兵に命令した。

「勇者を地下牢へ連れて行きなさい」

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