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もりくる月の影見れば……

 木の間より もりくる月の 影見れば 
         心づくしの 秋はきにけり

 古今和歌集の読み人知らずの一句である。なんとも優しさに溢れた一句ではないだろうか。心の悲しみを、訳もわからないうちに癒されてしまう様に思える一句である。
 最近、ずっと漢詩ばかりを読んでいた。
「漢詩は志を表し、和歌は心を表している」
 と何かに書かれていた様に思う。
 漢詩ばかりを読んでいると、頭の中がロジックで固まったように思えてきた。そこで口直しに和歌を読んでみた。一発で、心を撃ち抜かれた。
 ほがらほがらに、固まりかけていた心が朝の柔らかい光の温もりで、ゆっくりと溶けていくように感じた。
 古今和歌集の仮名序の冒頭が恋しく思い出された。
「やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれにける」
 この言葉の響きだけで、心に溜まった澱(おり)が溶けて行く。
 季節は秋である。暑さはまだ厳しいが、月が綺麗な季節である。


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