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野点は、思いを際立たせるお点前

 茶道を始めて半年のヒヨッコです。「野点」にはシンプルな所作の中に沢山の感情が宿っていて、そのことを際立たせるお点前だ、と感じるようになりました。その心を思うと涙を誘われます。

 誰かのために、制限のある場所で一服の茶を点てる。幾重にもかさなる制限の中を工夫して、その場にあるモノを道具に見立てて足りない物の代用として使う。それが返って主人の一椀にかける思いを、熱く代弁してくれる。主人の一工夫に気付いた客は、その思いに触れて心が和む。そう言う一椀を目指して、しばらくは先生にお相手していただこうと、近頃、思うようになりました。

 96歳の義理の母が老人ホームに入って、明日で一週間になる。そこで娘と相談して、新しい環境で緊張している義母に私が、一服の茶を点ててあげることにした。義母は、若い頃は茶道をたしなんでいたということを、亡くなった妻から聞いたことがある。

 そのことを、茶道教室の先生に話した。

「明日、老人ホームに入っている96歳の義理の母に、盆略点前で一服のお茶を点ててあげようと、思っています」

 すると先生が、

「盆略点前ですか、ピッタリですね。蜻蛉さん、お盆はあるの、お茶筅は大丈夫? お茶杓は?」

 と、あれやこれやと気を使ってくれた。

「お菓子は、どうするの?」

「まだなんですけど、スーパーで何とかと思ってます」

「スーパーねぇ。ちょっと待ってて。時間は大丈夫でしょ」

「はい。大丈夫です」

 私は茶室の片隅で、姉弟子たちのお稽古が一段落するのを待った。頃合いを見計らって、先生が、

「これを、お持ちなさい」

 と、生の和菓子を分けてくれた。そして、別れ際、

「健闘を祈ってるわ」

「なんか、試合に行くみたいですね」

 と私が言うと、みんなが笑った。

 明日は部屋の中だけど、野点のようなもの。先生の御好意を無にしないように……苦手の義母だけど、頑張って来ます。

創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。