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影見し水ぞ、まづこほりける

 茶道のお稽古に、客との問答がある。そこで披露する茶杓の銘のために、冬の歌を一句。
 大空の 月の光し 清ければ 
      影見し水ぞ まづこほりける
「古今和歌集の読み人知らずの歌から取りました。銘は影見し水、でございます。意味は冬の夜空で光る月があまりにも綺麗なので、その月の姿を最初に見た水が、一番最初に凍りました、という意味でございます」
 と、お客に答えるつもり。
 一見わかりにくいのだが、意味深な和歌である。
 例えば月を綺麗な女性に置き換え、水を男性とすれば、理解しやすい。最初に綺麗な貴方を見つけた私が、誰よりも先に惚れてしまいました、という意味にとれるようになる。
 それはさておき、次回の茶道のお稽古の時のお茶杓の銘を「影見し水」としました。
 二代将軍徳川秀忠の茶道の指南役だった小堀遠州は、道具の銘を古今和歌集から数多く取って付けている、とものの本で読んだ。こうして自分でも銘を考えてみると、一見、こむずかしそうに思える茶杓の銘だが、結構出来るものだなと感じた。
 ただ問題は、せっかく付けた銘を茶道の先生が、
「カゲロウさん、その銘の方が趣きがあるわ。今日の貴方の銘のなかで、一番ね」
 と面白がってくれるかどうかが、私にとっての最大の関心事である。ここで高評価をいただけ無ければ、全ての苦労が水の泡となってしまう。
 次のお稽古まで、あと10日である。


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