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ボーカルを頼んで出入り禁止

 ボーカルと喧嘩別れして3ヶ月。ママさんカメラマンも心配してくれて。
「ボーカル、なんとかなった?」
「いやー、それがですね」
「なんとかなったの?」
「会社の掃除のお姉さんに、声をかけたんですけど」
「掃除のお姉さんって?」
「会社の掃除をしているお婆さんたちに混じって、一人、20代の女の子がいるでしょ」
「ああっ、いるいる」
「その娘に、C DとYouTubeのチャンネル名『kagerounoyoru』
とメールアドレスを書いた名刺を渡したんです」
「反応は、どうだったの?」
「その時は、『じゃあ、聞いてみます』って、明るい声で良い反応でした」
「その娘の歌とか聞いたことはあるの?」
「いいえ。若い女の子って、最近はみんなカラオケとか行ってるから、うまいじゃないですか」
「ええ? 歌も聞いたことのない子。大胆」
「多少、練習すれば、なんとかなると思って」
「で、その後は?」
「どういうわけか、避けて通られてます。しかも、ストレートの髪だったのがパーマまでかかって。変装までされて、一見、誰だっけ? っていう感じになって」
「……」
「実は、その前に毎日、自販機の缶コーヒーを入れに来てるお姉さんにも声をかけていて」
「その娘はどうだったの?」
「翌日から、来なくなりました」
「やばいじゃん」
「そうなんですよ。しかも、彼女と一緒に来ていた爺さんに、睨み付けられて。そんなに、ひどいことをしたという記憶はないんだけど」
「うーん、どうなんでしょう。うちの女子カメラマンには、絶対に声をかけないで頂戴ね」
「ええっ?」
「一人でも女子カメラマンに今、会社を辞められては困るから。もし辞めたら、蜻蛉さん、出入り禁止よ」
 心配してくれていたママさんカメラマンに、そう釘を刺されて以来、静かにしている。欲求不満になりそう。(※写真は本文と関係ありません)

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