雨の日の水溜りで遊んだのはいつの頃だろう【6】
葉子が作って来てくれたサンドイッチを囲んで、お昼を取った。
「このキュウリのサンドイッチ、とても美味しいですね」
「嬉しい。マスタードが効いてますでしょ?」
「はい。とても。絶妙ですね。後10枚はいけそうです」
「もっと持って来たら良かったですわ」
「十分ですよ。本当にありがとうございます。とても美味しいです」
「喜んでくださって、嬉しいですわ」
サンドイッチを食べ終わり、ふたりでコーヒーを飲みながら、ゆっくりとした時を過ごしていた。
葉子は、ふと思いついたように言った。
「悲しそうな眼差しにも見えますわ」
僕は写真の女性のことだと思った。
「そうですね…」
「あなたも、そうですわ」
「僕がですか?」
「なんだかそんな感じに見えますわ」
「悲しくありませんよ」
「表面的なことではなくて…帯びているというか…眼差しの奥にあるようなものでしょうか…そう感じます」
僕は黙って葉子を見つめた。
「手を握ってくださらないの?」
僕は葉子の手を握りしめた。
「口づけをしてくださらないの?」
僕は葉子を引き寄せて、そのふっくらとした紅い唇に口づけした。
抱擁と口づけはしばらく続いた。
お互い唇を噛んだ。
舌を絡めて、唾液を交わした。
僕は葉子から身体を離した。
「今日はなさらないの?」
「何をでしょう?」
葉子の顔が赤く染まった。
「…もう。いじわるですわ…」
僕は言った。
「この前の?」
「そうですわ、…」
「なさりたいのですか?」
「先に尋ねたのは私ですわ」
「したいのはやまやまですが…」
「なさいますの?」
僕はこの前のことを思い出しながら言った。
「いたしたくありますが…そうすると約束に間に合わなくなると思うのです」
「そうですわね…。それはいけませんわ」
「ご一緒に図書館に行きませんか?」
「お邪魔ではなくて?」
「そんなことありません」
「でも…」
「ご一緒に行きましょう」
「そこまで仰るなら、ご一緒しますわ」
「用事が済んだら、また、戻って来ましょう。それからいたしませんか?」
「よろしいのかしら…」
「お嫌ですか?」
「嫌…ですわ、そんな言い方…」
「是非、どうか」
「したいって仰って」
「したいです」
「どうしても?」
「どうしても」
「私と?」
「あなたと」
「私もですわ…あなたと…」
僕は葉子を抱き寄せて、抱きしめた。
それから時間になるまで、葉子と口づけをした。
キュウリのサンドイッチの味がした。
きっと葉子もキュウリのサンドイッチの味がしたことだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?