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セイキロスの墓碑銘

1883年にトルコのアイドゥン近郊で鉄道工事の際に発見された紀元1世紀頃の円柱状の墓石には、詩と共に古代ギリシャの記譜法による楽譜が刻まれていました。この通称『セイキロスの墓碑銘』が、完全な音楽作品の楽譜としては現存最古のものになります。

https://samlinger.natmus.dk/as/asset/28501

この石碑は現在はコペンハーゲンのデンマーク国立博物館の所蔵となっており、同館のウェブサイトで詳細な画像が見られる他、IMSLPでも碑文や現代譜例を入手出来ます。

https://samlinger.natmus.dk/as/asset/28501

Εἰκὼν ἤ λίθος εἰμί τίθησί με Σεικίλος ἔνθα μνήμης ἀθανάτου σῆμα πολυχρόνιον

我は石像、不滅の記憶の永年の標としてセイキロスが据えた

この石碑は発掘後に工事監督の奥さんが植木鉢の台座にするため底を平らに削り落としたせいで、碑文の最後の1行が失われています。

現存する最後の行は

Σεικίλος Εὐτέρ(セイキロス エウテル)

とあり、おそらくはセイキロスという人がエウテル(ペ)という女性に捧げたということか、あるいは「エウテルペスの息子セイキロス」という意味の可能性もあります。

記譜法は、歌詞の上のアルファベットで音高を示し、横棒と点で音価を示すものです。

音価に関しては複数の解釈がありますが、音高のシステムは明快です。下に引用する表に見られる三つ組の一番下が「ナチュラル」で、その上のものは1/4音づつ高くなると考えてください。つまりこれは声楽用の楽譜で、 ϹaΚ c'♯ を表しています。

M. L. West, Ancient Greek Music, 1992.

Ὅσον ζῇς φαίνου
生あるうちは輝いてあれ

μηδὲν ὅλως σὺ λυποῦ
けして悲しむなかれ

πρὸς ὀλίγον ἔστι τὸ ζῆν
人生は束の間にして

τὸ τέλος ὁ χρόνος ἀπαιτεῖ
クロノスは終焉を求めるが故に


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