ジュスティとグリマルディ:イタリアのチェンバロについて7(172)
現代の楽器でイタリア式のチェンバロといえば、ジュスティかグリマルディのコピーが定番でしょう。
しかしながら現在の彼らの楽器の人気は、それが格別優れているからというよりは、イタリアの歴史的チェンバロの情報の乏しかった時期に、偶々いち早く解析が成されたせいなのかもしれません。
Giovanni Batista Giusti (c.1624 - c.1693) 、彼はゼンティの弟弟子にあたり、初めはボニやゼンティのもとで働いた後、独立して故郷のルッカに工房を構えました。彼もまた有名なチェンバロ職人であって、比較的多くの楽器が現存しているものの、やはり偽作も多いのです。
ジュスティ作とされるチェンバロは15台が知られていますが、少なくともその半数は偽作です。偽作の幾つかは例によってフランチョリーニ由来で、さらには誰も実際に見た者がいない「幽霊楽器」まである始末。
ジュスティの真作とされるチェンバロで、特に楽器製作のモデルとして良く参照されているのは、故タリアヴィーニ教授個人蔵の1679年製のものです。1974年に修復が行われ、詳細が公表されてより、これを元にした楽器が盛んに作られ続けています。
インナー・アウター型、全長235cm、音域 GG, AA-c3、そしてイタリアのチェンバロでは珍しいことに、2×8' に加えて 1×4' を備えています。しかし現代の複製楽器では4フィートは大抵省かれている模様。
Carlo Grimaldi (1645-1717) 、シチリア島のメッシーナの楽器職人で、チェンバロだけでなくリュートやオルガンも製作していました。
シチリアのチェンバロについては現存例が少なく、あまり分かっていませんが、ナポリの影響が強かったであろうことは想像できます。先述の1675年頃ナポリのグアラチーノ作とされるチェンバロを、実際はシチリア製であるとする説もあります。
ニュルンベルクのゲルマン国立博物館所蔵の1697年製グリマルディのチェンバロは、インナー・アウター型、2×8'、GG, AA-c3、全長243.5cmの薄型で細長いスマートなフォルム。しかし楽器本体よりもまずはその凶悪なスタンドに目が奪われてしまいます。
この楽器は1977年に修復され、その際に得られたデータによってやはり多くの複製楽器が作られています。もっとも流石にスタンドまで写した例は見たことがありませんが。
しかしどうしたわけか1967年にグスタフ・レオンハルトがこの楽器を演奏した録音が存在しています。修復前にも演奏は可能だったのでしょうか。この辺の経緯は良くわかりません。
パリの音楽博物館にも、ほぼ同型の1703年製グリマルディがあるのですが、こちらはなんとピアノに改造されてしまっています。
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