旅立つ友へ
①
インドの薄汚れたベッドで廃人のようだった君は
まもなく友となり
長く世界を一緒に這いまわることとなった
灼熱のインドで渇き
ヒマラヤの氷河で迷い
チベットのヒッチハイクで砂まみれ
孤高であること
誠実に接すること
無駄口をたたかないこと
いつしか旅人としての矜持は
君の背中から教わっていた
②
一人旅の身勝手さと
相棒のいる安心
君とならどちらもが共有できた
それは奇跡的な出会い
二人の旅は一人旅の延長
唯一無二の距離感覚
絶妙なバランスだった
それでもオレらはソロツーリスト
ある日突然旅立って
本来の姿にもどるのだ
気がつけば
君のいない自由を
寂しいと感じはじめていた
③
長い旅を終え
新しい街で所帯を持ったオレ
必死に歯を食いしばり
周りを見る余裕もなく走り続けた
20年が過ぎ
振り返れば君が
遠く離れていることに気付いた
心を込めて声を掛けてみたけれど
取り戻せなくなってしまっていた
オレらの距離
④
君は50にして
人生の新たな旅へと
何も言わずに去ってしまった
心の奥底に沈殿した
ザラザラとした感触
君がオレに残した孤独
見えない背中を追いながら
君の道へと寄り添うために
オレはまた一人
荒野を歩きはじめる
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