旅立つ友へ

インドの薄汚れたベッドで廃人のようだった君は
まもなく友となり
長く世界を一緒に這いまわることとなった

灼熱のインドで渇き
ヒマラヤの氷河で迷い
チベットのヒッチハイクで砂まみれ

孤高であること
誠実に接すること
無駄口をたたかないこと

いつしか旅人としての矜持は
君の背中から教わっていた

一人旅の身勝手さと
相棒のいる安心
君とならどちらもが共有できた
それは奇跡的な出会い

二人の旅は一人旅の延長
唯一無二の距離感覚
絶妙なバランスだった

それでもオレらはソロツーリスト
ある日突然旅立って
本来の姿にもどるのだ

気がつけば
君のいない自由を
寂しいと感じはじめていた

長い旅を終え
新しい街で所帯を持ったオレ
必死に歯を食いしばり
周りを見る余裕もなく走り続けた

20年が過ぎ
振り返れば君が
遠く離れていることに気付いた

心を込めて声を掛けてみたけれど
取り戻せなくなってしまっていた
オレらの距離

君は50にして
人生の新たな旅へと
何も言わずに去ってしまった

心の奥底に沈殿した
ザラザラとした感触
君がオレに残した孤独

見えない背中を追いながら
君の道へと寄り添うために
オレはまた一人
荒野を歩きはじめる


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