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約束の地、読了

 2008年よりアメリカ大統領を2期務めたバラク・オバマ元大統領の回顧録。
上巻下巻ともそれなりのボリュームがあり、上巻を読み始めてしばらくしてもいつ読み終わるんだろうか・・・と思ったりもしたが、大統領に選出された段になってからは、息をつく暇もないほどの難問続きに、読んでいるこちらまで、オバマ氏と家族、閣僚、スタッフのタフな毎日を追体験するようで、緊張とともに一気に読み終えてしまった。
全くまとまっていないけれど、読んだ記録を残しておく。

改めて、オバマ氏が大統領に選出されたことのインパクト

 世界中に広がるBLMの運動を見て、公民権運動を推進していたジョン・ルイス議員の記録、MARCHも読んでいた。
もちろん、アメリカでは有色人種、とりわけ黒人に対しておよそ平等とは言えない態度を取る人が多いことは知っていた。MARCHを読んで、その歴史の長さ、深さを知ったけれど、BLMを見て、今なおここまで活動が大きくなることについてはあまりピンとくる実感がなかった。

 けれど、ちょうどこの本を読むと同時に、高橋芳朗氏のディス・イズ・アメリカを読み、本の中でお勧めされていたネットフリックスドキュメンタリー13thを鑑賞して、この問題が現代今日までずっと根深く続いており、例えば13thのドキュメンタリーによれば、刑務所ビジネスが成り立ってしまっていたが故に、より黒人が捕まりやすい状態になっていたこと、国としてそれを止めていなかったことなど、個々の問題ではなくシステムとしてそうなっていたことを知った。

 実際にオバマ氏の本でも、「自分が道を通ると(どんなに清潔な格好をしていたとしても)車の鍵を閉めたり、避けたりする人がいたと書いている。明らかに不穏な感じがあるから とかではなくて、アイコンとして、拒絶する社会なんだということを知る。

こうした中で、アフリカ系アメリカ人、ハワイで生まれ、インドネシアで数年を過ごしたオバマ氏が大統領になったことは、当初見ていて感じた以上にアメリカの中では大きな変化で、おそらく多くの黒人、マイノリティーの人がその映像を、例えようのない喜びと希望をもって見ていたのだろうと想像した。

過剰な期待が失望に変わっていったかもしれない。それでも。

 「YES WE CAN」の言葉とともに熱狂の渦の中にあった、オバマ氏の勝利の映像はよく覚えている。掲げていた理想は素晴らしく、多くの人がこれまでのアメリカ社会の環境から考えれば、新たな大統領の誕生と今後展開されるであろう新たな境地に多くの期待をかけただろう。
一方で、中間選挙での敗北や年を経るにつれてトーンダウンしていった様子もよく覚えているし、その様子は約束の地・下巻でも書かれていた。

 2016年の選挙でトランプ氏の優勢が伝えられる中で、「正しいだけの主張には限界がきているのかもしれない」というような論調も見掛けたように記憶している。それはある意味で真実なのかもしれないけれど、私自身は約束の地を読んで、それがどんなに理想論であろうと、オバマ氏が学生時代の活動や、自身のバックグラウンドを持って、掲げていた”理想”は、どれも素晴らしいと感じた。
 チームにダイバーシティーを持つこと、個人の尊厳を尊重すること、弱き人も安心して暮らせる社会にすること、持続可能な環境を目指して温暖化対策に注力すること、世界のリーダーとして模範的な態度を示すこと。
そしてそのタフさ、明るさ、家族やチームへの愛情。(家族に関しては何よりも、ミシェル・オバマ氏が凄すぎると思うけれど)
どれをとっても素晴らしく、自分の国のトップがこんな人なら誇りに思うだろうなと感じた。(もっと当時のことに詳しい人から見れば、あれが書かれていないとか、もっとここが悪かったんだという批判もあるのかもしれないけれど。)

 そして、どんなにそれが理想論であろうが、リーダーになる人には明確に「理想とする社会」を描いてほしいと思った。もちろん、私たちも。
いろんな選択をする中での軸になるんだろうと改めて感じた。

いずれにしても、期待値が高過ぎたんだろうと思う。就任してすぐのリーマンショック、オバマ・ケア、中東での軍事展開の実際(本当はなくしたかったけれど)、温暖化対策のための首脳会議、中間選挙など次々に訪れる難関や党内議員からの反対、共和党からの反対等政治力学によって”思うように動けない”ことが続いた中で、”進んでいない””弱腰”みたいにして見られて行ったのかもしれない。

こういうの、日本のトップが出したらどんな本になるんだろう・・。

感じる時代。多分今はこうはいかない。

 そして、時代も感じた。
当時は2008年、2009年。まだ中国は胡錦濤氏の頃。中国のGDPがようやく日本を抜こうかというところ。まだアメリカの1/3くらいだったころ。
オバマ氏の本にあったように、まだまだアメリカの脅威になるほどではない、しかし将来的に追い抜くエネルギーを持っている国くらいの位置付けだったんだろう。だからこそ中国との交渉、中国との連携国との交渉も、できていたんじゃないか。

 トランプ氏の時に、米中関係特にが悪化したように見えたけれど、この頃中国のGDPはアメリカの3/2。2009年からたった5年でGDPを2倍に伸ばし、アメリカを上回る成長速度が続いていた。
だから誰が大統領でも、世界の覇権をどっちが握るのかという面では対立はあったのではないかなと思う。そして、より民主主義の力を信じる民主党政権では、現状のようなイデオロギー対立も必ず起こっていたのだろうと思う。中国やロシアに関連する内容は、あの時代だからこその程度なのだと感じた。
アメリカが世界のリーダーだと断言し切れるのも。(もしかすると、これはトランプ氏を挟まなければ見え方だけは違ったかもしれないけれど)

きっと、今は全く違う。この全く違う中では、このような本の内容はどんな風になるんだろうと、また興味がわいた。

読まないよりは、読んだ方がいいと思える本

 一番好きだったエピソードは、温暖化対策の首脳会議の時。EU、アメリカ、(当時の)新興国(中国、インド、ブラジル等)の対立により議論が進展しなかったとき。ヨーロッパ首脳との議論が膠着した後、中国側との面談を再度入れていたオバマ氏が、首相と連絡がとれていないとシークレットサービスから聞く。自国に帰ったのか、まだ国内にいるのかもわからないと。
そこで、ヒラリー・クリントン氏に「最後にわるふざけをしたのはいつだ?(的なこと、詳しいセリフは覚えていない)」を言って、新興国組がmtgしている場所に急遽乗り込み、首相と膝突き合わせて議論して、一定の進捗あるコメントを出せたこと。
なんて痛快。そんなことあるんだな。
世界の首脳が集まる会議で、「**を合意した」という発表にどのくらい意味があるのかしらと思っていたけれど、確かに本当に国ごとに全く違う状況、狙いがある中で、一定の方向性を発信できるっていうのは凄いことなのかもしれないと感じた。

 プーチン氏、メルケル首相、サルコジ大統領、ブラウン首相などそれぞれの国のトップの特徴も描かれていて、それも面白かった。
(読んでいて、当時鳩山さんだったのかと思い出した。。。)

まとまっていないけれど、読まないより読んだ方がよい。
理想論を持ち続けることは大事だというのがよくわかるし(それがないと軸ができない)
アメリカのリーダー=世界のリーダーが何に向かい合っているのか、そこにどんな困難があるのか
世界のリーダーがどれほど多くの課題を、国際バランスの中で対応しているかということ
困難にぶち当たった時の気の持ちよう など。

とても興味深く読みました!おすすめ。

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