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夜、自分

自分の輪郭がぼやけて楽しいのか、辛いのか、何が好きで何がしたいのか、どの感情が本当でどの感情が嘘なのかわからない。

「いやでも、今の状況の私はごはんがたべられない人とかから見たらすごくありがたい環境であって、大きな会社で働けて、贅沢な悩みだよ」

頭の中にいるもう一人の自分は、軽い気持ちでなんの気無しに弱音を吐かせてくれない。「いや、言うてもそこまではしんどくないし、大丈夫だし、ちゃんと弁解しないと誤解されるよ」と警報を出す。気づかないうちに私は私に、弱音を吐くことを禁じている。

私が私に求めるものは多い。優しくしなさい。努力しなさい。楽しい人生を送りなさい。お金を稼ぎなさい。友達を大事にしなさい。痩せなさい。仕事は毎日ちゃんとやりなさい。評価されることをしなさい。「完璧でいなさい。」

小さな頃から頭の中で作り上げてきた「完璧な自分」の像に私はずっと憧れていて、彼女になるための歩みをやめることはできない。

ある日から突然、眠り方を忘れてしまった。ベッドに入る前はちゃんと眠いのに、いざ横になると頭が冴え渡って眠り方がまるでわからない。時計の針の音と隣で寝てる翔くんの寝息が、どんどん近づいてきて、明瞭に感じて、寝られずどんどん朝になっていく恐怖をより一層強くする。

ああ、もう5時だ。

完璧になれない自分を許したい。私のなりたい私はどこからきて、どこにいるんだろう。多分、目の前に現れた無数の人間や、読んできた本、漫画、映画のなかで素敵だなかっこいいなと思ったキャラクター、正しいと思った考え方、可愛いと思った顔、蛍光ペンでハイライト。それがそのまま“彼女“になってゆく。

完璧なんて無理だ。だから物語がある。リアルは不完全だから、せめて物語の中だけは完璧だと感じたい。そのことに耐えられないから今日も私は口からこぼれ落ちそうな弱音を力一杯押し返す。そんなふうに取り繕っても全然意味ないとわかっていても取り繕ってしまうのは私の弱さだ。

完璧なんて求めずにいられる人間に早くなりたい。自分を自分の理想で縛るのも辞めたい。

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