見出し画像

書評:有機化合物辞典


読んだ本

有機合成化学協会・編、有機化合物辞典、初版第1刷、講談社サイエンティフィク、1985年、1298頁.

分野

有機化学全般

対象

収集家

評価

難易度:無評価(辞典のため)
文体:無評価(辞典のため)
内容:悪 ★★☆☆☆ 良
総合評価:★★☆☆☆

はたして現代に価値はあるのか

内容紹介

●学界・産業界の第一線研究者250余名が実用的内容をめざして執筆・編纂。
●基本的化合物、重要な天然物はもとより、化学・製薬・食品工業の原料、製品、試剤から液晶、電子材料に至るまで、約8000の有機化合物を収載。
●化合物名は、学術名(IUPAC名)と慣用名を併用した。
●すべての化合物に構造式を付し、必要なものには立体配置を明示した。また、オンライン検索に便利なChemical Abstractsの登録名と、製造・流通部門で役だつ化審番号を示した。
●各化合物について、構造式・分子式・分子量・物性値・化学的性質・製法・用途・起源・取り扱い・毒性等を具体的に記述し、必要に応じ文献を付した。
●巻末には検索に便利な索引を収録。
(引用:有機化合物辞典 | 書籍情報 | 株式会社 講談社サイエンティフィク (kspub.co.jp)

感想

 私は電子書籍版が定価、紙媒体がプレミア価格だとしても、紙媒体のほうを選ぶくらいには紙媒体至上主義の人間である。しかし、そんな私でも紙媒体に意味を見出せない書籍も存在する。一ついっておくと、紙媒体至上主義にはいくつかの種類があって、例えば単に本がかっこいい、などの趣味的価値観の人や、電子書籍は目が痛くなる、などの電子書籍にデメリットを見出している人など様々である。ただし、私の場合は、紙媒体が実利的であると判断しているが故の紙媒体至上主義である。なので、電子のほうが実利が上回れば電子版を使用する。
 ネット上の様々なサービスが普及した現在において、実験書や辞典などは価値が低下してきている(実験書の価値に関してはこちらの記事で述べている)。しかし、紙の実験書や辞典にも私は未だに価値は存在していると考えている。が、当書にはあまり意味を見出せない。当書は、約8000の有機化合物を名前順に収載しているのだが、名前順というのが曲者である。化合物を調べるとき、①名前と構造をしっている、②名前のみしっている、③構造のみしっている、④特定の骨格を有する化合物群を調べる、という状況に分類できる。
 ネットの場合、名前を検索してもいいし、構造式検索 (TCI, Aldrich, SciFinder etc.) を使えば、名前を知らない化合物を調べることもできる。また、特定の骨格を有する化合物群も同様に調べることが可能だ。一方、紙媒体は、まず名前がわからなければ調べようもなく、類似の構造を有する化合物群を調べるなどという高等検索は行えるはずがない。しいていえば、炭素数順などで分類されているタイプであれば、ある程度は近しい構造の化合物を一挙に調べられるかもしれないが、限度はある。また、名前を知っていたとしても、みなさんご存じの通り、化合物にはいくつも名前があるので (新IUPAC, 旧IUPAC, 慣用名)、紙媒体ではすんなりと調べることは難しい。このように、検索能力でいえば、紙媒体とネットでは月とすっぽんの差がある。
 あえて紙媒体のメリットをあげるとすれば、情報の正確性だろうか。ネットは玉石混淆で、最近だと宿題をだされた生徒の大半がAIの嘘情報に踊らされたというニュースが物議を醸していた。したがって、ネットにおける情報の取捨選択ができない人 (理系修士生すら割といる) にとっては紙媒体もなしではないのかもしれないが、そういう人は大抵紙媒体を使わない。
 以上のことから、紙媒体の当辞書の価値というのは、現代ではあまりないと思われる。個人的には、化合物の掲載数と、和書にて有機化合物に特化した辞典が当書と安藤 亘 (編)『有機化合物事典』くらいしかないという希少性から保護したが、実用的な価値はあまりないと思う。

購入

1,2年前くらいに中古で500円程度で購入した。Amazonだと2024/08/07時点では3000円程度と、すこし高い。よほどほしい人でない限り買わなくていい。

参考サイト

  1. 有機化合物辞典 | 書籍情報 | 株式会社 講談社サイエンティフィク (kspub.co.jp)

  2. 『有機化合物辞典』(有機合成化学協会)|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?