書評:有機合成の定番レシピ
読んだ本
上村明男 訳、研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ、初版第6刷、丸善、2017年、246頁.
分野
有機化学、実験化学
対象
有機系研究室に配属されたB4
評価
難易度:無評価(実験書のため)
文体:無評価(実験書のため)
内容:悪 ★★★★☆ 良
総合評価:★★★☆☆
初心者向け有機化学実験書の双璧をなす
内容紹介
合成化学者必携。あなたが思い描いた化合物、さて、どのようにつくるべきか。どんな反応を用いればよいの?どんなテクニックがあるの?パソコンに映し出されるおびただしい量の文献の数々。必要な情報にたどりつけないなんてこと経験したことはないだろうか。そんなとき、有機合成の標準的な“実験レシピ”をコンパクトにまとめた本書が、あなたの悩みを解決。最初に習得すべきテクニック、最初に試すべき反応、情報の取捨選択のきっかけとなる代表的総説を収載。思いのままに実験できるようになるのもレシピの匙加減しだい。明日のあなたのラボライフを明るくする一冊。(引用:有機合成の定番レシピ - 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 (maruzen-publishing.co.jp))
感想
研究室ですぐに使える有機合成の定番レシピ(以下、有機合成の定番レシピ)は、もはや私が評価するまでもなく有名な実験書であり、初心者のための有機化学実験書の中では、上村明男 訳『研究室で役立つ有機実験のナビゲーター』(以下、有機実験のナビゲーター)と双璧をなすと勝手に思っている。『有機実験のナビゲーター』は、ろ過や蒸留、再結晶といった実験の基本的テクニックをまとめた本であるのに対して、当書は反応のレシピをまとめた本となる。なので、実験の基本的テクニックを知りたければ『有機実験のナビゲーター』、反応条件が知りたければ当書を読めばいいだろう。
題目の通り、定番のレシピがまとめられているわけだが、SciFinderが普及した現在では、学部生が実験書を使っている状況をあまり見ない。構造式検索さえしてしまえば、自分の行いたい反応と全く同じ、乃至非常に酷似した構造の例がすぐさまヒットする。従って、この本を読むよりSciFinderの扱い方を学んだほうがいいのかもしれない。
しかし私は未だに紙の実験書がもつ優位性は失われていないと思っている。まず第一に、SciFinderが必ずしも使えるとは限らない。少なくとも、学部の時に在籍していた大学では使えなかったし、他にもSciFinderが使えない大学の噂はよく聞く。SciFinderのような構造検索ツールが使えない場合、ネットで反応条件を見つけるのは至難の業となる。第二に、簡単な反応であればSciFinderで調べるより早い。SciFinderはログインして、構造を書いて検索して、出てきた膨大な情報の中から使えそうなものを選別する必要がある。まず、特許の情報はあまり当てにならない。これは有機化学をやっている人なら誰しもが共感できることと思う。また、論文の中にも信用ならないものは紛れており、また、到底真似できない条件(例えば300℃を超えるような超高温条件や、見たことのない変態錯体、高価な試薬をジャブジャブ使うなど)もところどころ混じっている。しかし、学部生には実験条件の良しあしがわからない。一方、実験書の場合、慣れればパラパラ開けばすぐに欲しい情報が得られるし、情報の取捨選択に困ることがない。特に当書は小さく、頁数も少ないため、探すのも苦労しない。もちろん、特殊な基質や反応はカバーしきれないので、そういう場合はSciFinderを使うべきだが、保護脱保護や酸化還元といった基本的反応のスタンダードな条件を調べたいときは実験書が有利である。逆に言えば、膨大な情報量で殴ってくる実験書は価値が低いと思っている。膨大な巻数、頁数から探すのは一苦労だし、結局マニアックな反応は載っていなかったりする。したがって、私の意見としては、学部生向けに情報を選別された本はSciFinderを超える価値が未だに存在していると確信している。当書がまさしくそれであり、学部生はぜひ購入していただきたい。
購入
学部の頃に新品で購入した。価格は4000円なので、学部生にとっては高く感じるかもしれない。(学術書の中では安いほうではある)
参考サイト
公式以外に、多くの紹介サイトがあるので、そちらを見たほうがいい。
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