書評:フロンティア軌道法入門
読んだ本
I・フレミング 著、福井謙一 監修、竹内敬人・友田修司 訳、フロンティア軌道法入門、初版第2刷、講談社サイエンティフィク、1980年
分野
有機化学、物理有機化学、量子化学、有機軌道論
対象
軌道論を深く理解したい人
評価
難易度:易 ★★★★☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★★★★ 良
総合評価:★★★★★
歴史的名著
内容紹介
反応物側から生成物をHOMO、LUMOで予測するフロンティア軌道法は、W-H則を超える半定量的方法としてきわめて有効である。本書は有機化学の学生・研究者のために、豊富な反応例に即して平易に解説した入門書。(引用:フロンティア軌道法入門有機化学への応用 | 書籍情報 | 株式会社 講談社サイエンティフィク (kspub.co.jp))
感想
軌道論における、まごうことなき名著。有機電子論ではDewar著『有機化学の電子説』が歴史的名著として王者に君臨しているが (個人的意見)、軌道論ではこの本がまさしく歴史的名著といっても過言ではないだろう (個人的意見)。軌道論と題する和書は比較的豊富に見受けられるが、それらの中でも群を抜く内容であると言わざるを得ない。比較的古い本なので、令和の学生から見れば多少の古臭さは否めないかもしれないが、読み始めればそんなものは気にならない。これまで自分がいかに無知だったのか、そして新たな知見が洪水の如く押し寄せてくるため、面白い小説を読んでいるときと同様、頁をめくる手をとめられない。学術書でここまで魅入られるものは中々ないだろう。古いといっても所詮は1978年であり、旧字体や戦前の言い回しなどはないので、文体としてはスムーズに読むことができると思う。
フロンティア軌道論が日本発祥 (化学史的経緯に関しては、例えば古川安著『化学者たちの京都学派』に詳しい) であることから、軌道論の和書はいくつか存在している。しかし、それらは軌道の形やエネルギーがわかった上で、どのような解釈をすればいいか、というどちらかといえば応用的理解にとどまっており、じゃあその軌道の形やエネルギー準位はどうやって知るの? という当然の疑問が付きまとう。一方、当書は分子の軌道がどのように形作られていくのか、という真なる基礎概念から学ぶことができるので、量子化学計算をせずとも、定性的に軌道論を用いて議論することができるようになる。類似の立ち位置にある本として、福井謙一 著、『化学反応と電子の軌道』がある。これも名著の一つではあるのは間違いないが、やや難解な言い回しが多く、人におすすめするなら『フロンティア軌道法』に軍配があがる。
ちなみに、本家の内容紹介では入門書と書いてあるが、学術書あるあるで、いきなり当書から入ると少し難しく感じるかもしれない。稲垣都士 他著『フロンティア軌道論で理解する有機化学』や、山口達明 著『フロンティアオービタルによる新有機化学教程』あたりから入るとすんなり読めるだろう。少なくとも合成屋からすれば、当書を有機軌道論における”ハイエンド”に位置する本という認識で問題ないだろう。
購入
この本をいつ手にいれたのかはいまいち覚えていないが、神田神保町にある明倫館書店で購入した痕跡がある。神保町に足しげく通っていた学部時代に購入したのだと思う。絶版ではあるが、少なくとも2023年時点では簡単に、それなりの状態の古本を手に入れることは可能だ。プレミア価格になる気配も今のところない。
類似図書
福井謙一 著、化学反応と電子の軌道、丸善
稲垣都士・池田博隆・山本尚 著、フロンティア軌道論で理解する有機化学、化学同人
藤本博・山辺信一・稲垣都士 著、有機化学と軌道概念、化学同人
友田修司 著、分子軌道法、東京大学出版会
山口達明、フロンティアオービタルによる新有機化学教程、三共出版
参考サイト
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