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書評:フロンティア軌道論で理解する有機化学


読んだ本

稲垣都士・池田博隆・山本尚、フロンティア軌道論で理解する有機化学、第1版第3刷、化学同人、2021年、176頁

分野

有機化学、物理有機化学、量子化学、有機軌道論

対象

軌道論を初めて勉強する学生(B3以上)

評価

難易度:易 ★★★☆☆ 難
文体:易 ★★☆☆☆ 難
内容:悪 ★★★☆☆ 良
総合評価:★★★☆☆

初学者に最適

内容紹介

量子論に基づくフロンティア軌道論は、有機電子論では難しかった筋の通った説明を有機化学に与えうる。本書の精緻な軌道図とその解説は、複雑な計算なしに学生や有機化学者の軌道図を見る目を養う。現代の有機化学に必要なエッセンスをコンパクトにまとめた意欲作。(引用:フロンティア軌道論で理解する有機化学 - 株式会社 化学同人 (kagakudojin.co.jp)

感想

 自分が学部時代に初めて読んだ軌道論の本である。この本をきっかけに軌道論に目覚めたといっても過言ではない。これまでの学部の授業では、巻き矢印で説明する有機電子論を基本武装としていたが、この本では初っ端から「有機化学をすべて軌道論で説明する」と言い放つ豪胆さに興味をひかれた。
 内容としては軌道論を理解するための基礎知識からの説明になるので、本当の初心者向けである。ただ、もちろんのこと、基礎的な有機化学を土台にするものであり、マクマリー有機化学やボルハルトショアー現代有機化学レベルの基礎的有機化学の教科書を読破した後でないと、あまり意味はない。なので対象としては学部3,4年以降だろうと思われる。
 良書か悪書かでいえば間違いなく良書に値する。しかし、この本の決定的な問題として、本の中で最初に言ってのけた、「有機化学をすべて軌道論で説明する」ことが、この本を読んだだけでは全くできない点にある。なぜなら、本文中の軌道はすべて計算によって算出しており、量子化学計算ができない多くの学生にとっては、”使えない”知識と思われる危険性をはらんでいるからだ。つまり、この本を読んだとしても、実際の問題に適用するには計算する技術・環境がないといけない。その点でいえば、不十分と言わざるを得ないのかもしれない。しかしこの薄い本にそこまで求めるのは酷というものであろう。この本の立ち位置としては、あくまで軌道論という新たな領域へ足を踏み入れる橋渡しという認識をしておくべきだろう。したがって、この本だけで軌道論を理解するには程遠く、よりレベルの高い本へ移行する必要がある。即ち、当書は良い意味で”ローエンド”に位置する軌道論の布教本である。
 最終的な評価としては、初めて軌道論を学ぶ学生には強く勧められる本であると言える。山口達明著 『フロンティアオービタルによる新有機化学教程』も、同じ立場の本であり、どちらかの本から学び始めるのがよいと思われる。

購入

 発売されてまだ数年しか経っていないので、新品を容易に入手可能である。逆に言えば、中古は未だに値崩れしていない。ちなみに自分は2023年の化学同人謝恩セールにて半額で入手した。初めて読んだときは学部生であり、なおかつ軌道論をほぼ知らない状態だったので、今改めて読み返すと、当時の自分は全くこの本を読み解けていなかったのだと痛感させられた。

参考サイト

  1. https://www.kagakudojin.co.jp/book/b378588.html

  2. https://www.chem-station.com/books/2019/03/orbital.html

  3. https://note.com/suzukusa/n/n2775198e6ce7

  4. 【フロンティア軌道論で理解する有機化学】有機反応を軌道的に解釈できるようになる!概要・難易度・おすすめの使い方を紹介!! | Ponnyo blog (ponnyo-blog.com)

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