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書評:合成化学者のための実験有機金属化学


読んだ本

佐藤史衛・山本經二・今本恒雄、合成化学者のための実験有機金属化学、第1版第1刷、講談社サイエンティフィク、1992年、270頁.

分野

実験化学、有機化学、有機金属化学

対象

有機系に研究室配属されたB4以上

評価

難易度:無評価(実験書のため)
文体:無評価(実験書のため)
内容:悪 ★★★★☆ 良
総合評価:★★★★☆

特化したからこその良著

内容紹介

合成手法の実際と適用範囲を詳述した実験書大きな発展しつつある有機金属化合物を利用する合成反応についての,きわめて実用的な実験マニュアル。典型金属,d―ブロック遷移金属,ランタニドの3部構成。(引用:『合成化学者のための実験有機金属化学』(佐藤 史衛,山本 經二,今本 恒雄,遠藤 茂樹)|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)

感想

 有機化学実験書は選ぶのに迷うほど多く出回っている。基本的に実験書は、①初心者用の薄くて総合的な実験書、②初心者から上級者まで使える大きくて総合的な実験書、③専門性を高めた専門書、の3つに分類することができる。①だと上村明男 著『研究室で役立つ 有機実験のナビゲーター』や上村明男 訳『研究室ですぐに使える 有機合成の定番レシピ』、②なら日本化学会 編『実験化学講座』シリーズや、有機合成化学協会 編『有機合成実験法ハンドブック』(amazon)などが定番だろう。一方、当書は③に分類されるであろう実験書であり、有機合成の中でも、金属を用いた実験だけを解説している。また、金属を使った反応といっても、錯体合成などではなく、Grignard試薬やGilman試薬といった、有機合成屋が扱う反応を中心にまとめてある。そのため、270頁と実験書の中では薄いにも関わらず、かなりの満足感が得られる。逆に、錯体合成を中心とした実験法が知りたい場合は、Sanshiro Komiya著『Synthesis of Organometallic Compounds』(amazon)あたりを参照するべきだろう。
 有機金属化学の実験書としては、丸善の実験化学講座のランナップの中にも存在する。私が所有しているのは日本化学会 編『新実験化学講座』シリーズなため、日本化学会 編『新実験化学講座 12 有機金属化学』と当書を比較してみる。新実験化学講座は518頁であり、倍近くの頁数である。しかし、新実験化学講座は、Grinard反応などの合成化学者向けの反応のみならず、錯体の調整法も多く記載されている。したがって、有機合成化学者を対象とするなら、多くの頁は読まない実験項で占められることになる。1個あたりの実験項をみると、そこまで量に違いは見られない。しかし、『合成化学者のための実験有機金属化学』は実験項の後に注記が記載されている。当書の注記はすさまじく、例えば1-ブロモ-3-メチルブタンからのGrignard試薬の調製では、12個の注記が書かれており、その文章量は実験項の4倍ほどであり、もはや注記が本体まである。この注記が大変優れモノで、私も大変お世話になった。一方、新実験化学講座のほうは、言ってしまえば論文の実験項を母国語にして少し情報量を増やした程度である。それでも大変ありがたいのだが、『合成化学者のための実験有機金属化学』と比べると見劣りがする。以上をまとめると、有機合成に使われるような反応から錯体合成まで、多くの反応を掲載されているのが『新実験化学講座』、実験数は少ないものの、有機合成屋が使う反応に特化して1個あたりの情報量を増やしたのが『合成化学者のための実験有機金属化学』であると言える。そのため一概に優劣をつけることはできないのだが、個人的には『合成化学者のための実験有機金属化学』のほうが役に立つことが多かった。

購入

もはや覚えていないが、明倫館書店の札がついていたのでそこで買ったのだろうと思われる。当然絶版だが、ネットで軽く調べてみると、1000~2000円程度と破格の値段なので、有機金属化学の実験をする学生はまず買うべきであろう。

参考サイト

  1. 『合成化学者のための実験有機金属化学』(佐藤 史衛,山本 經二,今本 恒雄,遠藤 茂樹)|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)

  2. 合成化学者のための実験有機金属化学 | 書籍情報 | 株式会社 講談社サイエンティフィク (kspub.co.jp)

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