日本企業の技術ノウハウの危機:業務効率化と称して業務を外部委託をすることで企業が空洞化した

産業の空洞化という言葉を聞いた事があるだろうか?
自動車業界のような製造業企業が、自動車の製造拠点を日本国内から海外に移転させる事で、日本の製造拠点がなくなる事をもって、空洞化と表現している。

産業の空洞化と言えば製造業の製造拠点を国内から国外に移転したり、製造品の発注を国内企業ではなく海外の製造企業に発注するようになることでも発生する。
だが、産業の空洞化、企業の空洞化が発生する要因はこれにとどまらない。


日本企業は現在、「人材不足を解消する」ことと「業務を効率化する」という目的に加え、人的資本を「本業に集中する」という目的から、様々な業務を外部の業者に業務委託をするということが進んでいる。
筆者が従事する資産運用業界では、各社が当然に保有していた資産運用業の技術ノウハウが完全に空洞化して崩壊するレベルの地殻変動が起きている。

例えば、現在業界全体で進められているのはファンドの評価業務だ。
資産運用業ではファンドで保有する資産の価値を計算し、ファンドの価値を日々計算している。
投資家が投資信託を購入した時、毎日、投資信託の価値を計算して公表することとで、投資家が現在の投資信託の価値を把握するのに利用されている。
このファンドの価値の計算業務を現在、資産運用業界ではほとんどの企業が外部の業者に業務委託されている。
ファンドに組み入れられている資産の中には、上場株式や債券のような単純な資産もあれば、株式の権利やデリバティブなども組み入れられている。
その中には簡単に計算できるものもあれば、計算ノウハウがなければ計算できないものもある。
そこには長年蓄積されが計算技術があり、ファンドの価値の計算業務があったからこそ、その技術が自然と受け継がれていった。

筆者が当業務を行っていた時は合計で5名から10名程度で行っており、業務委託をすることで、業務委託先の業務を監督する者として3名から5名へと担当者が減ることとなった。
業務委託により、結局最大で人は5名しか減らすことが出来ず、自分たちで業務をしていた時に比べれば計算ノウハウが蓄積しないという明確な不利益となった。

このような業務委託は何故か業界で推奨され続けている。
筆者の目からすれば、どれも利益は少なく、不利益が大きい。

上の例で言うと、資産の評価業務をする者が社内にいなくなり、資産評価の専門用語が社内で使われなくなっていった。
専門用語が使われなくなれば、必然的に専門技術が失われていく。

現場担当者が無知となれば、本来満たすべき品質管理レベルを理解できなくなって当然であり、必然的に品質管理不足状態となる。
技術の大切さを理解しないサラリーマン経営者が自社の技術ノウハウを平気で捨て去る行為が日常的に行われているのが今の大半の日本企業の現実なのである。


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