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グッバイ透明な世界

新人の頃、彼氏と遠距離交際していたヒステリー持ちの底意地の悪い先輩がいた。上昇志向の強い人で私はなんでもできる、私はできる人間の意識が物凄く強かった。

この先輩とは反りが合わなかったがそこはそれ、新人なので大人しくしていた。何を言われてもはいはいと逆らわず。

その先輩が、親友と同じ少女漫画を好んでいたと後から知った。その少女漫画はひどく透明感があって、私にはガラス玉の中の世界のように思えた。そして、その世界にはちょっと馴染めないなと思った。私が好きなのはギリギリと主人公が自分を苛みもがきながら前に進むような話だったから。

少し前にそれを知ったなら、そのガラス玉のような透明な世界に浸れたのかもしれない。しかし、もう時はすでに遅し。もう世界に対して何がしかの戦いを自分の中で始めていた。どちらかと言えば少年漫画のように。

今思うと、その透明世界は自分の中ではすでに通りすぎてしまったものなのだろうと思う。郷愁すら感じないほど自分の中で完全に消化しきったもの。いや、自分の中のセンチメンタルとは違うものは鼻につくだけだ。それでも嫌いなわけじゃない。人それぞれ心に留めておきたいものはある。

お互いに異動の時期が重なり、それぞれ違う場所へ行くことが決まった時、初めて仕事で言われたことに反抗した。今まで大人しく言うことに従っていたので、相手はポカンとしていた。

その後、先輩は結婚し義理両親と同居したが折り合いが悪くて別居。言うことをきかない後輩に苦労しているという。なれば、別れ際の一回の反抗など可愛いものである。




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