書く時間
書く時間はたくさんある。書く事柄も尽きることがない。
私は全てを書き留める。細かなことも漏らさず正確に。
私は記録する。起こったことを全て。書いてどうするか。保存するだけだ。書かれた事柄は後ろに積み重ねられていくだけだ。
その日も私が書いていると、問う声がした。
「ずっと始まりから書いているね。終わりはもう書けたの?」
私は答える。
「はい、全ては記録しました。あと成されていないのは未来の分だけです。」
その人は私の書いた終わりの記録を読むとちょっと悲しい顔をした。
「全ては終わるのだね。」
問われて私は答える。
「はい、その時は私も役目を終えるのです。」
その人は、しばらく考えていたが、だがまだ時があると呟いた。
「始まりがあれば終わりがある。それまでを楽しむことだ。」
私ははい、と答えた。その人は私の書き上げたものを丁寧に箱に仕舞うと踵を返した。
私の名は「時間」
過ぎ去った時間とこれからの時間を書きつけ全て記録するのが私の役目。
動くものは皆自由意志で生きていると思っているが、全ては私の手の中にある。それは私自身どうこうできるものではなく、私はただ書いて記録するだけだ。過去だけでなく未来も。
私は書く。瞬時に消える幻のような命の煌めきを、その命が紡ぐ物語を出来事を。命を持たない私だが、その時だけは生きてるような心持ちを感じる。
私は一つの記録を書いたに過ぎない。しかしまだまだ書くべき事柄はあるはずだ。
私は待つ。また、あの人が来て書くように命ずるのを。その幾つもの煌めきに照らされ、茫洋とした私の姿が意味ある輪郭を持つ時を私は待っている。
(終わり)
*以下の企画に参加させていただきました。
書いてるのが「時間」であるとすれば面白いかなぁ〜という思いつきで書きました。アカシックレコードを書いていると想定して。
相変わらずわけのわからないことを書いていますが、読んでいただければ幸いです。
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