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BOOK REVIEW⑧: 教育は何を評価してきたのか

【生きづらい社会を変えられない原因は、「望ましい」人間像にあった!能力・態度・資質という三つの言葉から読み解く】と帯にあり、購入。

著者は東京大学大学院教育学研究科の本田由紀教授。スクールカーストについての著書もあります。

今まで日本の教育がどの様な能力を育み、これからそれがどのように変化すべきかという示唆がある本と思い読みました。

私が最も興味を持ったのは、「資質・能力」や「態度」には日本独特の性質が見出されるという点。PISAのキーコンピテンシーや21世紀スキルのような資質や能力に関する議論が世界的に注目を浴びる中で、日本のそれに関する解釈は欧米とは異なる意味があるというのです。

その大きな特色はナショナリズム。最近では道徳の教科化などもその例の一つで、水平的画一化と本書では述べられていましたが、全ての人に一定の価値観や規範を教えることで、民衆を掌握しようという保守派の狙いであるといいます。つまり横並びに同じであること=能力・資質として語られることが多いという事でしょうか。これが息苦しさの原因その1です。

息苦しさの原因その2は、垂直的序列化です。学力により上位から下位まで差別化され、知らないうちに社会的にその位置が固定化されてしまう構造(入試など)のことで、能力=学力と見られています。また時には、学力が低いと非行に走るなど、能力=人格としても理解される事もあります。

面白かったのは、中学生を対象にした調査で、「校内成績」が高い生徒は、「ルール遵守意識」が強く、「クラス内影響力」が高い生徒と「道徳の授業が好き」な生徒は、「愛国心」「ルール遵守」「上位者への服従」「性別役割分業意識」が強い、という結果。傍証にしか過ぎないと書いていましたが、校内成績が高い生徒も、クラス内影響力が強い生徒もクラス環境から言えば支配者的立場の生徒(スクールカーストが上位ということになるのかな?)。言うなれば、クラスの雰囲気や意思決定の中心的存在である彼ら自身が柔軟性に欠けるような存在であるということです。そして、そういう能力や資質を教育してしまっているのが今の日本の学校なんですよね。

また下位の生徒は、未来に対する絶望感や水平的画一化に従っていても無力感を感じるなど大きな閉塞感をもたらしているそう。

つまり、日本の教育が生徒につけさせているのは社会でほとんど無用な学力と、横並びである能力の二つなんですよね。

これって、教師として実感あるな、って思います。それをアカデミックに証明してくれたこの本、素晴らしいと思います。

そして、目指すべきは水平的多様化と結論づけています。特に、義務教育終了後はより高度な分野の教育機会を提供するべきとして高校の再編成、特に普通科の割合が国際的に見ても高い日本の状況を変えるべく専門学科を増やすべきと言う提案をしています。オランダのイエナプランの話も少しありました。

国際的にみて、日本は学力やスキルはあっても経済の活力へとは繋がっていないそう。つまり、学力が無駄になっているということ。しかも、多くの人が今より高度な職務はできず、今の職務も十分できていると感じていないと回答したとする調査もあって、社会の歪みも指摘されていました。

単に、コンピテンシーと言っても、日本語に訳されると文化・歴史的背景から意味が変わったりする事も考えられます。これから21世紀スキルはどのような方な形で、日本社会に取り込まれていくのでしょうか。本文でも○○能力(コミュニケーションや問題解決)と言った言い出した途端に垂直的序列化が始まる言った指摘もありました。さらに生きづらい社会になっては本末転倒ですからね。

著者の結論を最後にメモしておきます。 以下、本文より引用。

学級及び学年と言う固定的集団を最小限のものとし、いずれは廃止を目指す。具体的には、学習集団や所属集団を、1学年を含む流動的、多元的な形で編成する。
児童生徒は各教育段階の修了要件として規定されている知識、スキルの習得に向かって、各自の進度即した授業や個別学習に取り組む。修了要件に達した後は各自の関心やより高度な学習に取り組む。教員は個々の児童生徒の進路とニーズに即して学習を援助する。こうした個別的な学習に加えて、多様な児童生徒のグループによる共同で課題に取り組み学習の機会を拡充する。
校則、生活指導、部活動等を最小限かつ強制性の弱いものとし、児童生徒間の下議論や合意を尊重する。

異学年、学びの個別化、問題解決型授業、ファシリテーターとしての教師の役割、校則・規則の寛容化などはやっぱりキーワードになってくるなと思いました。

教育や学校が抱える問題意識や、それに対するオールタナディブ、つまりみんな目指しているところは結局同じだなといつも感じるのです。それぞれがいろんなアプローチで同じ事を指摘してるんですよね。面白いです。

この本は内容がとにかく盛り沢山だったので、ぜひ再読したいです。

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