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吉高由里子さん、お疲れ様でした

『わたし、定時で帰ります。』の最終回が無事放送されました。ほっとしました。そしてすばらしかった。

まずは、吉高由里子さん、主演を引き受けてくださってありがとうございました。

私が初めて吉高さんの演技を見たのは、『私が恋愛できない理由』(2011年/フジテレビ)というドラマが最初でした。吉高さんが演じていたのは小倉咲、24歳。就職活動のために留年している大学生の役でした。彼女の物語に私は引き込まれました。

このドラマが放送される3年前、リーマンショックが世界を襲いました。ようやく回復の兆しを見せつつあった有効求人倍率は史上最低値に落下。第二次氷河期に突入していました。
咲は一年目で就職先が決まらなかったのでしょう。キャバクラで学費を稼ぎ、新卒資格を失わないようにしている彼女の境遇は、第一次就職氷河期世代の私が見ても重く、シビアでした。

でも、吉高さん演じる咲に悲壮感はありませんでした。就活手帳に目を落としている時は心細い表情をするのですが、母や妹や前では能天気な姉を演じます。「出版社に就職できた」と嘘をつき、高給取りを気取って仕送りをします。そして、夜は友達と笑って酒を酌み交わすのです。

東山結衣というキャラクターを創造する時、頭に浮かんだのは、あの時の吉高さんでした。いい時代も、そうでない時代も、ビールの泡を見て「わあ!」と笑っていてくれそうな人。白楽天の詩「対酒」を体現している人。

八尾プロデューサーから「吉高由里子さんに主演女優のオファーをしています」と連絡をいただいた時は、なんだか不思議な気持ちがしました。

長時間労働が美徳とされるこの国で、定時に帰ってビールを飲む、という東山結衣というキャラクターは、一歩間違えば反感を買ったかもしれません。吉高さんが演じてくださらなかったら、これほどまでに愛おしく思われる人物にはならなかったでしょう。

心からの感謝を。
吉高さんが演じる結衣にまた会える日が来ますように。

朱野帰子