【論文を読もう①】寄付したいと思わせるにはどうすればよい?
一般公開されている研究報告や論文の中から、個人的に興味深かったものについて簡単にまとめていくシリーズです。
少しでも科学のおもしろさを知ってもらえればと思います。
1.今回紹介する論文
今回紹介する論文はこちら↓↓↓
『環境保全への協力意識に情報提供が与える影響を評価ー寄付してもよいと思う金額は、文章と図表で情報提供すると12~19%増加、動画で情報提供すると逆に5~7%減少ー』
〈研究グループ〉長野県環境保全研究所、九州大学、国立環境研究所、北海道大学、福井工業大学、総合地球環境学研究所及び東北大学
〈発表日〉2020年08月26日
気候危機や感染症など、科学情報が重要となる場合において、どのように情報を提供すれば、受け取り手に伝わりやすくなるのかについて検証したものです。
全国規模で、提供する情報の量や種類の効果について推計した研究はどうやら世界初のようです。
では、詳しく研究の内容を見ていきましょう。
2.研究の概要
今回の研究は、
「提供される情報の量や媒体によって、受け取り手の意識はどう変わるの?」
ということを調査したものです。
調査の方法は、下記の通りになります。
◉沖縄のサンゴ礁保全に対する協力意識(仮想の保全対策にどのくらいの金額寄付できるか)を全国規模でインターネットを利用して調査。
◉日本の人口構成を反映できるように、性別・年代・地域人口を考慮し、20歳から69歳までの86,149人に参加を呼びかけ、そのうち10,573人が協力。
◉協力者を下記の4グループに分け、調査。
(a)事前の説明を提供しないグループ
(b)簡単な説明(728 文字+15 枚の写真や図を 12 枚のスライドに編集)を提供するグループ
(c)詳しい説明(1777 文字+20 枚の写真や図表を 14 枚のスライドに編集)を提供するグループ
(d)動画で提供するグループ(473 文字の字幕と 19 枚の写真を BGM あり・ナレーションなしで 2 分 37 秒に編集)を提供するグループ
研究グループは、
「動画で提供するグループが一番協力意識を持ってくれる」
と予想しました。
3.研究の結果
結果は、保全活動に対する寄付金額を
(a)説明を提供しないグループを基準とすると、
(b)簡単な説明を提供したグループは19%増加
(c)詳しい説明を提供したグループは12%増加
(d)動画で提供したグループは5%減少
となり、予想とは反するものとなりました。
なぜ、動画では寄付金額が減少してしまったのでしょうか?
研究の中で、3つの理由が予想されています。
①文章量や図表が不足
動画を編集する際、写真等を多く載せてしまい、文章での説明よりも情報が不十分になりがち。
②見終わるのに時間がかかる
詳しい説明でも読み終わるのに1分程度だったのにもかかわらず、動画では約2分半かかっており、受け取り手が集中しづらかった。
③早く終わらせたいが、時間がかかりイライラしてしまった
協力者には、抽選で500円相当の金券が渡されることになっていたので、早く終わらせたいという気持ちがあり、より時間のかかる動画での情報提供ではイライラしてしまった。
今回の研究では、動画で伝えることのデメリットの面が影響しているようですね。
4.まとめ
みなさんは、欲しい情報がある場合や、何か目標があって動画を見ている時、スキップや倍速再生などしてしまうことってないでしょうか?
文章なら全体にざっと目を通すことも可能ですが、動画だとそれは難しくなります。
より早く自分の目的のものを得るためにショートカットしたくなりますよね。
ナレーションの導入やインタビュー形式など、手法を少し変えれば結果が変わってくる可能性もありますが、「動画での情報提供がよいとは限らない(マイナスの効果さえ与える)」ということが分かりました。
今回は、科学情報の情報発信の方法についての研究でしたが、他の部類の情報でも発信したい内容を受け取り手の状況を考えて、適切な手法を選ぶことが大切になってくると思います。
5.参考文献
発表された本文の中には、寄付金額が多かった年齢・性別・収入の量などについての比較もされています。
気になる方は、ぜひ読んでみてください。
・環境保全への協力意識に情報提供が与える影響を評価(PDFリンク)
・九州大学HP
※簡単にまとめる際に、少なからず私の主観・表現の至らなさ・解釈違いが生じている場合がありますので、正確な情報は原文を確認してください。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ご意見・ご感想等お待ちしております。
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