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「世界の絶景」  8.南極クルーズ


1. 大型客船で南極クルーズ

 地球にある6大陸のうち、もっとも人間の開発が及んでいない大陸。各国の研究機関の基地に駐在する研究員の他は、ごく少数の観光客以外はほとんど訪れない秘境中の秘境。地球に残る最後のフロンティアとも言える南極を大型客船で遊覧するクルーズに乗船した。

2.ウシュアイアからキングジョージ島へ

■3月6日20時 南米最南端の港・ウシュアイアを出航。
 南緯55度付近から62度付近の暴風圏に横たわり「地獄の海峡」とか「365日嵐の海」と呼ばれている魔のドレーク海峡を35時間かけてキングジョージ島に到着する予定だ。
 前日、「卓上へはモノをおかないように」と注意をうけたので、パソコンやポット等をしまい込み、酔い止薬を飲んで床につく。
 翌日、目覚めた時、多少の揺れは感じたが意外に静かだった。外は濃い霧につつまれて何もみえない。これから揺れがひどくなるのだろうか?
 この日は、写真の整理をしたり、本を読んだり、終日キャビンで過ごしたが、心配したほどの揺れは今日もなかった。

南極クルーズの拠点・ウシュアイア

3. キングジョージ島

■8日7時、南シェランド諸島最大のキングジョージ島の沖合に到着。
 キングジョージ島は1819年にイギリス人の探検家ウィリアム・スミスによって発見され、イギリス国王ジョージ3世にちなんで「キングジョージ島」と命名された。
 10時頃船内放送があった。「霧もはれて非常によい天気です。皆さんデッキに出て、キングジョージ島のすばらしい風景をお楽しみください。」
 南極には大型客船が停泊できる港がないため、島には上陸できない。観光は船上から眺めるだけだが、それでもデッキに立つと、今まで見たこともない絶景が広がっていた。

■南極観測基地の密集地帯
 キングジョージ島は南極観測基地の密集地帯であり、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ロシア、大韓民国、中華人民共和国、ポーランド、ウルグアイの8カ国の観測基地があることから、南極の非公式の首都とよばれている。
 それらは有人越冬基地がほとんどであり、生物・地学を中心とする研究が行われている。チリ空軍の管理するチリ南極観測基地エドゥアルド・フレイ・モンタルバには滑走路があり、これが各国基地の補給と人員輸送に重要な役割を果たしている。
 同観測基地の近くには、「チリ領南極」で最大の人口を抱えるビジャ・ラス・エストレージャス(星の町)という集落があり、研究所などのほかに住宅や郵便局がある。
 この島には観光客用ホテルもあり観光客が上陸することが可能だ。
 船からはポーランドの基地が見えた。

ポランドの観測基地

■テープル氷山
 キングジョージ島を過ぎて少し経ったとき、巨大氷山の船内アナウンスがあり甲板に出る。遠くにテーブル氷山が見えた。
 文字通りテーブルのように上が平だった。棚氷(大陸から張り出した氷)が割れて出来たもので南極特有のものらしい。
 氷山の上には無数のゼンツーペンギンが群がっていた。体長75~90Cmというペンギンがまるで砂糖に群がる蟻のように見え、氷山の大きさを実感する。

4. ブランスフィールド海峡
■絶景の続くキングジョージ島付近
 船は次の目的地、デセプション島をめざしてブランスフィールド海峡をゆっくりと進んで行った。
 息をつく間もない奇景、絶景の連続で寒さも忘れてシャッターを押し続けた。

5.デセプション島

■ 8日の夕刻、デセプション島が見えた。
 南緯62度57分、西経60度36分に位置するこの島は、海底火山の噴火口部にあたる火山島だ。
 数段階の火山活動によって島の噴火口に海水が流れ込み、直径13Kmほどのリング状の島になった。
 この島は南極付近で唯一の温泉が湧き出ている。
 世界最南端の温泉だが、上陸した人の話しでは、そのままでは熱くて入れず、海水と混ざった部分に寝転がって入浴することができたそうだ。

■沈まぬ太陽
 西の空が赤みを帯びてきた。
 しかし、夏の南極では太陽はなかなか沈まない。写真を撮り始めたのが20時8分、50分後もまだ空は薄いオレンジ色に染まっていた。南極ならではの夕焼けだった。

6.パラダイス湾

3月9日 パラダイス湾に入る
 南極半島で最も美しいと言われるパラダイス湾に入った。周囲の山から大小様々の氷河が流れ込み、快晴の日のすばらしさは想像を絶する美景が、幽玄の世界に誘ってくれた。
 パラダイス湾は、20世紀初頭に捕鯨船の休息地として利用されていたときに名付けられたという。
 入り組んだ入り江では海が荒れることはなく、きっと理想的な休息地となったのだろう。
 この日は、10日に一度しかないという好天にめぐまれ、デッキには温かい陽光が降りそそでいた。
 「南極で裸になろう会」が俄かに結成され、およそ20人の若者たちが水着姿で集まり写真を撮り始めた。我々は防寒着をしっかり着ていたが、素肌に直射日光をあびた方が暖かいようだった。

■氷河が作り出す青い絶景
 湾の奥の水面は凪いで鏡のように静かだった。
氷河から崩れ落ちた氷塊がいたるところに浮いていて、見上げるほど高くまで山々は氷河に覆われている。

 内陸に積雪した雪が何万年もかけて圧縮され、その内陸の源流地から押し流されるように氷海に浮かぶ氷は、青く鮮やかで、何かのオブジェのように不思議な形をしている。

■南極の動物たち
 南極大陸を取り囲む南大洋は、最低でも水温が−2℃あり、豊かな生命を育んでいる。
 大量の植物プランクトンが繁殖し、それを餌とする動物プランクトンも多く、これを食べる魚や鳥のほか、アザラシやクジラなどの海産哺乳類も生息している。
 海に近い陸地の氷上にコロニーを形成するペンギンは、パラダイス湾では、残念ながら見ることが出来なかったが、洋上で潮を吹くクジラ、氷の上に寝そべるアザラシの写真を撮ることができた。

■3月10日 パラダイス湾からウシュアイアへ
「2時間で四季を見ることが出来る」といわれるほど南極の気候は変わりやいという、その言葉を裏づけるように、3月10日の朝は前日の晴天とは打って変わった雪景色だった。

 クルーズ船は氷河の多い海路を遊覧する予定だったが、狭い航路を大型客船が悪天候の中を航海するのは危険だということで、予定を変更して、もと来た海路へ戻ってウシュアイアへ向かった。
 10日の夜から魔のドレーク海峡へ入ったのだろうか船は大きく揺れだした。後で聞いた話だが、ベッドから転落して肋骨を折った人がいたそうだ。
11日も終日揺れていた。12日の午後1時頃アナウンスがあった。「まもなくホーン岬がみえます」。
 デッキへ出てみると霧の中に岬らしきものが霞んでみえた。


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