見出し画像

すみれいろのめをしたねこ

テムズに向かってゆるやかに傾斜する裏庭
キッチンドアから出ていく君のしっぽ
パンパスグラスの根元から
しっぽ と 穂
どちらもふさふさ立ち上がって
左右に揺れている
日向の君のあくびは
幸先のいい1日の約束

「駅からの橋の上で
カモメがホバリングしながら
片足で頭をかいていたの
私の頭のすぐ上で!
本当だよ!」
私がキッチンテーブルから
身を乗り出して
一日の報告をしている間
君は
上からぱらぱら降ってくる粉を
黒と白の毛皮につけて
君と同じ色のタイルの上を
行ったり来たりしていた
君のご主人が
パイ生地をこねていたからね

サイダーを
片手に
キッチンで
のんびり夕食を作っている
下宿の主人
私もレモン水を飲みながら
話したっけ

長い毛並みに枯草や種をくっつけて
キッチンの外でニャアと鳴いていたら
誰かが「お帰り」と君を入れたね
私の小さな部屋に来て
窓辺でくつろぐ君に
(もうすぐ夏も終わるね)
私の国の言葉で語りかけたら
君は勇者らしからぬ
すみれ色の瞳でまばたきを
返してくれた

君の体が本当は
長い毛の下で
子猫みたいにはかなげで
細い骨組だってこと
君を抱きしめるまで
知らなかった
その時
愛おしくて
切ない気持ちになったよ

ねえファーキン
最後に君が干潮の河床で戦ったキツネ
いつも庭に来ていたあのキツネだったのかな
君は昼から出かけたきり帰って来なかった
君の主人は庭から何度も君の名前を呼んでいた
けれど、隣人がキツネと勇敢に戦う猫を見たって話をしたんだ
河床に横たわって動かなくなったという
その猫はきっと君だって
君の主人は言った
君は庭に入るキツネを追い払っていたから
キツネに狙われてもおかしくないって
みんなとてもとても悲しんだよ

ねえファーキン
君の主人とその家族のこと
たくさんの留学生たちのこと
君のいた窓辺の風景を
陽の光に包まれていた小さな命を
これからも忘れないよ