フランス女性の自立と男女平等
昨年に続き、今年もまたフランスの地方都市に3か月ほど語学留学しました。周りには妻と家事育児を分担しているフランス人男性がたくさんいました。以前から「フランスはなぜ日本より進んだ男女平等を獲得したのだろう」と疑問に思っていましたが、今回、少し理解できた気がします。
日本と同じく封建的だったフランス
男女平等ランキングで、今年、フランスは146か国中22位、対して日本は118位に位置しています。特に日本は、政治と経済の分野で女性の進出が進んでいません。
今年のホームステイでは、50代フランス人シングルマザーの家に滞在し、彼女を通じて何人かのフランス人女性と知り合い、語り合いました。フランス人女性とはフェミニズムの話題で盛り上がることが、日本と大きく違っています。
日本では、フェミニズムは女性の権利拡大のだめに男性の権利を縮小するものと捉える人が多く、「女性も男性も生きやすい社会を作りたい」という本来の意味からかけ離れているためか、話題にするのを嫌がる人が多いようです。一方、フランス人にとってフェミニズム思想はごく当たり前のことで、女性の自立と男女平等は、フランスではとても大事な課題なのです。
昔のフランスでは封建的な家父長制度により女性の地位は低く、女性たちは子どもを産み育てるために家庭に閉じ込められていました。女性差別主義者だった英雄ナポレオンが作った民法典(1804年)により、女性がいっそう貶められたという歴史があります。
その後も、フランスの女性には参政権や財産所有権、就業の自由のない時代が続きました。女性が選挙権を獲得したのは遅く、日本とほぼ同時期の1946年でした。では、日本と似た家父長制度に支配されていたフランスが、なぜ先進的な男女平等を実現したのでしょうか。
反骨精神旺盛なフランス女性
フランスでは強い大人の女性が一目置かれます。今回のホームステイ先のマダムは、結婚せずに娘を1人で育て上げたことに誇りに思っていました。いつも「私は女性であり強い人間だ」と言っていました。
歴史を見ても、フランスでは女性が大きく貢献しています。15世紀、英国との百年戦争で大ピンチのフランスを救ったのは、ジャンヌ・ダルクというたった19歳の少女でした。18世紀には、数千人の女性たちがパンを求めてヴェルサイユ宮殿に行進し、ルイ16世をパリに連れ戻してギロチンにかけました。
フランス革命後に『人権宣言』が発布されましたが、女性の権利は含まれていませんでした。オランプ=ド=グージュという女性解放運動の先駆者が『女性人権宣言』を発表しましたが、ジャコバン革命政権によって処刑されてしまいました(1793年)。その後も女性人権活動家は迫害・弾圧を受け続けたそうです。
時を経て、1968年に起きた五月革命を機に、アメリカのウーマン・リブ運動とほぼ時を同じくして、フランスでも女性解放運動が起こりました。女性たちは、デモや集会を通して、徐々に自分たちの地位を向上させていったのでした。
なぜフランスは男女平等を推し進めるのか
フランス政府はパリテ法(2000年)という、政党にすべての選挙で候補者数を男女同等とするよう義務付けた法律により、フランス議会の40%以上が女性議員となりました。日本では、女性国会議員の割合は10%にとどまり、そのため、女性の地位向上に向けた法案が通りません。
また、フランス議会は、1000人以上の社員を持つ企業に、幹部社員の女性比率を2027年までに30%、2030年までに40%以上にするよう義務化しました(2021年)。すでに企業役員の女性の割合は45%となっていても、フランスは現状に満足しません。ちなみに、日本では課長相当職以上の女性幹部の割合は13%以下、役員は10%以下です。
日本では、既得権を持つ男性が、なかなか女性の地位向上に賛同してくれませんが、フランス人男性は男女平等社会への変化に抵抗しなかったのかだろうかと不思議に思い、前述のマダムにも聞いてみました。彼女が若いころの20~30年前のフランスは、男性優位が当たり前だったそうです。しかし、弾圧に屈せずに女性が声を上げ続けたことや、政治や選挙に関心を持ったことが大きいのではないかという結論に達しました。また、フランス人の不平不満を口に出す国民性も一役買っているのかもしれません。女性が現状に不満を持ち声を上げ続けることで、フランス人男性の考え方も変わったと私は考えます。
なぜ日本は男女平等から遠いのか
日本人の若い女性と話していると、女性の地位の低さを問題視していない人が多いように思います。親世代からの、女性はこうあるべきという思い込みがまだまだ刷り込まれているようです。「女の子の学歴はほどほどでよい」「家事育児は主に女性がするべき」「女性が政治の話をするのは可愛げがない」「男性はいいが女性は気遣いが必要」「夫の海外駐在には妻が仕事を辞めて着いていくべき」等、これらの思い込みを男女逆転させると違和感があるなら、やはり女性の地位が低いということです。
「不平不満を言う女性ははしたない」という思い込みを取り払い、女性が声を上げなければ、日本女性の地位は今後も上がらないと私は思います。
参考:日経クロスウーマン 2024年1月10日「 フランスに学ぶ、ジェンダー平等実現のカギは? 日本はどうする?」https://woman.nikkei.com/atcl/column/21/20210408/122800054/?cx_testId=6&cx_testVariant=cx_1&cx_artPos=2&i_cid=nbpnxw_sied_lg#cxrecs_s
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年8月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-54
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