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嘘ツキに恋するワケがない 第1話【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

【あらすじ】
相手の瞳の動きを見ることで、その人が嘘をついているかを見抜くことができる高校生、桜井 美玖みくは、クラスの男子 2人がいつも嘘をついていることに気がつく。
人望が厚く優等生な上條蓮かみじょうれんは、周りに期待されうんざりしている無気力な性格で、ヤンキーで怖がられている日比谷颯斗ひびやはやとは、家族思いの優しい性格なのだと知る。

上條と日比谷も、ずっと隠していた自分の本心に気がついた、ドジで明るい美玖に少しずつ心惹かれていく。
優等生な上條と、ヤンキーの日比谷という真逆のタイプからアピールされ、文化祭・ 体育祭・修学旅行という学生生活イベントを過ごしていく美玖。

ギャップ男子のイケメン二人から迫られる三角関係!?ラブストーリー!



【第一話】

この世界は嘘であふれている。
人間は一日に何度も嘘をつく。
 
「おはよー、試験勉強した?」
「いや、全然してないよー」
 
 通学路を歩く眠そうな女子高生と、その背中を叩く友人。
 試験勉強をしていないと言った彼女は、『嘘』をついている。
 
「やべーゲームしすぎて全然寝てねぇ」
「俺もだわー」
 
これも、嘘。
全然寝てないって言ったブレザーの男の子は、本当は昨日ゲームしなかったんだろうな。
 
「美玖おはよー!昨日の宿題難しくなかった?」
 
 校門前、笑顔で挨拶をしてきた親友に、私も笑顔で返事をする。
 
「うん、時間かかったよ」
「だよね。はー当たらないといいな」
 
……実は私も、嘘ついた。
英語得意だから、昨日の宿題は意外と簡単に終わったんだ。
 
人間関係を円滑にするためや、同調するためにつく嘘ぐらい、みんなつくもんね。
当たり前のことで、恥ずかしいことでも、悪いことでもない。
 
でも……。
このクラスには、すごく嘘をつく人がいる。
 
笑顔で先生の手伝いをしている彼と、一番後ろの窓際の席で、あくびをしている彼は、とんでもない「嘘ツキ」みたい。
 
 

嘘つきに恋するワケがない

第1話

 
 
高校二年生の桜井美玖は、寂しい幼少期時代を過ごしていた。
物心ついた時から両親は仲が悪く、学校から帰ると毎日のように言い争いをしていた。

「あなた、またあの女と会ってたのね!?」
「うるさいな!」

女性関係にだらしない父と、それに怒りヒステリックに叫ぶ母の声を聞きながら、リビングの隅で塞ぎ込んでいた。
自分の誕生日の日でさえ、ろくに祝ってもらえたことはなかった。

「おとうさん、今日テーマパークに連れていってくれるって……」
「ああごめんな、父さん仕事が入っちゃって。また今度な」
 
 ぬいぐるみを抱きながら涙目で訴えかける美玖の頭を撫でながら、父はもう何度目かの言い訳をしていた。
 
父は軽率に約束を破る人だった。幼心ながらに、きっと仕事っていうのは嘘なのだとわかる。
 父が留守の日は、一層母の機嫌が悪かったからだ。
 
 結局両親は離婚をし、母親に引き取られたけれども、長い夫婦生活で心を壊してしまった母に子育ては難しくなり、叔父夫婦の家へと美玖は預けられた。
 
「よろしくな、美玖」

 美味しいご飯に温かいお風呂。怒鳴り声の聞こえない家での生活は、最初は安心したけれど。

「やれやれ……子供の世話なんて面倒なこと押し付けられたよ…」

 本当の娘では無い美玖の世話を見るのは、本音はしんどいのだと、叔父と叔母が弱音を漏らすのを聞いてしまってからは、なるべくわがままを言わないように、迷惑をかけないようにずっと振る舞っていた。
 
 幼い頃からずっと大人の顔色を窺って過ごしてきたせいで、美玖は人が「嘘をつく」時の瞳の動きをわかるようになった。
それは、ほんの少しの瞳孔の揺らぎ。……でも、必ず嘘をついていると分かるのだ。

中学生の時の担任が、壇上で「先生が学生の時は、君たちよりもっと勉強していたぞ」と言った時も。
テレビで芸能人のスキャンダルが放送されていて、人気の女優が噂されている俳優のことを「彼とはただの仲の良い友人です」と言った時も。

 注意深く見ていないと誰しも見逃してしまう、一瞬のかすかな瞳の動き。

 分かるようになってからは、人間っていうのはこんなに息をするように嘘をつくのか、と思うこともあった。

……不気味がられるだろうから、誰にも言ったことはないけれど。

人の嘘がわかる。そんな秘密を隠したまま、美玖は平凡な女子高生としての日々を過ごしていた。


*      *      * 


 机の上にペンケースと教科書を出し、次の授業の準備をしていたら、机に影が落ちた。
 美玖が顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた青年が立っている。

「桜井さん、古文の課題の提出するんだけど、プリントくれるかな?」

 長い指を広げ、手を差し出してきた。

「あ……やばい! やるの忘れてた!ど、どうしよう……!」

 すっかり今日までの課題が出ていたことを失念していた美玖は、慌てて鞄の中をあさりプリントを取り出すが、もちろん真っ白である。

 わざわざ自分の席まで取りに来てくれたのに渡すことができず、あたふたと慌てていると、

「そう、じゃあ放課後まで待ってるから、できたら教えてね」

 彼は呆れるでも馬鹿にするでもなく、待ってくれるようだ。

「ちなみに、教科書の36ページの訳文見れば大体わかるから」

 美玖が机に広げた古文の教科書を指差し、助言までくれる。

「あ、ありがとう。上條くん……」

 お礼を言うと、小さく会釈をして自分の席へと戻っていった。
 

 ほっと肩を撫で下ろしていたら、隣の席の友達が腕を突いてきた。

「よかったね美玖、上條くんほんと気が聞くし優しいよね!」

 頬を赤らめ、彼の背中に熱い視線を送る友達。
 上條蓮、学級委員であり生徒会の一員である彼は、成績も学年でトップ、さ運動神経も良くて、さらに顔もかっこいいときたら、女子から人気が出るのは当たり前である。

「おーい上條、委員会の予定だが……」

「はい、なんでしょう」

 担任からも頼りにされているのか、廊下から声をかけられても嫌な顔ひとつせずに対応をしている。

「上條くん、今日もかっこいいー!ビジュ良すぎ!」

「どこの大学行くんだろうね。頭いいから絶対いいとこだよ」

 隣のクラスの女子が、廊下に出てきた上條を見つめ、すれ違いざまに歓声を上げている。
 彼がいるだけでパッと場が明るくなる、華のある人だな、と思いながら、美玖は古典の教科書の教えてもらったページを開く。

「悪いな、色々任せちゃって」

 中年の担任は機嫌良さそうに上條の背中を叩く。

「いえ、委員会の仕事するの楽しいので、いつでも言ってください」

 はにかみながら返事をする上條の瞳を見つめ、美玖は心の中で呟く。

(……あ、嘘ついた)

 上條が『委員会の仕事するの楽しいので』と言ったときに、ほんの少し不自然な瞳の揺らぎを感じた。
 
 教室の中心に戻ってきた上條に、席に座っていた親しい男子が気さくに声をかける。

「なあ蓮。文化祭の出し物決まんないから、考えてくれねー?」

 何やら文化祭の企画を立てているらしい。ルーズリーフに箇条書きにされたリストに目を通して、上條は小さく頷く。

「ふふ、いいよ。こういう案考えるの好きだし」

 男子の隣の席に座り、ペンで色々と書き出していく。
 
(また嘘ついてた。彼は人に合わせるのが上手だな。
人気者の優等生は、色々と周りを気にして大変なんだろうね)
 
「おい日比谷、また授業中寝てただろ。しっかりしろ!」

 教師からの叱咤の声が聞こえて振り返ると、窓際の1番後ろの席で机に突っ伏していた男の子が顔を上げた。
 
「……はあ」

 日比谷と呼ばれた青年は、眠そうにあくびを噛み殺しながら生返事をする。

「どうせ夜遊びでもしてんだろ、ほどほどにしろよ」

 教師の偏見まじりの厳しい言葉に、

「チッ……すんませんね」

 悪びれもせず、舌打ちをして目を逸らす日比谷。
 その態度に対してさらに注意をしてくる教師にも、どこ吹く風である。
 クラスの中で一段と目を引く金髪にピアス姿の彼は、正直クラスでも異質な存在だ。

「やだー…日比谷くん怖いよね…」

 友人が彼を横目で見ながらひそひそ声で話しかけてきた。

「私の友達がさ、夜の路地裏で大きな鞄持った彼見たって!」

「え、何それ……運び屋のバイトとか? 半グレとか反社?」

 日比谷に対する噂話に花を咲かせ、声が大きくなってしまっている友人たちに、美玖は人差し指を唇の前に置きながら注意する。

「ちょ、ちょっとみんな……」

 もう少し静かに、と言おうとしたところで、背後から声がかかった。

「おい」

 低い声に肩を震わせ、恐る恐る振り返る友人たち。
 そこには、金髪の日比谷がこちらを睨みつけていた。

「……コソコソうるせーよ。だとしたら、なんか文句ある?」

 ドスの効いた問いかけに、

「なな、無いです…!」

 首を目一杯横に振って、視線を取らし萎縮する友人。
 しかし、美玖は一番後ろの席に座っている日比谷の瞳の動きを見逃さなかった。
(日比谷くん、嘘ついてた。本当は夜遊びなんかしてないんだろうな。違うって言い返せばいいのに。なんでだろう?)

 夜の路地裏で怪しいことをしていたと言うクラスメイトに言い返した日比谷は、嘘をついていた。
 おそらくやましいことなどしていなかったのだとわかる。

「はぁ……」

 教師に叱られ、女子からは悪い噂を囁かれた日比谷はため息をつき、肩にカバンをかけて立ち上がり教室の外へと出ていってしまった。
 その後ろ姿を見送り、ほっと肩を撫で下ろす。
美玖は彼の本音が気になるな、とその高い背を見つめた。

「あ、やばいもうこんな時間!」

 友人のリカが腕時計を見て声を上げる。

「ごめん、あたし今日掃除当番なんだけど、塾だから帰らなくちゃいけなくて」

 掃除当番は日によって割り当てられた数人がすることになっている。
 リカは焦ったように鞄の中に教科書やペンケースを入れると、美玖に向かって手を合わせた。

「美玖、悪いけど変わってくれない? 埋め合わせはするから!」

 ごめん、と頭を下げる彼女の瞳が一瞬、ゆらめく。

「ふふ、いいよ」

「わー助かるありがとう! また明日ね!」

 そそくさと廊下へと出ていくリカを見ながら、

(おそらく、塾じゃなくて彼氏とデートなんだろうな。ま、そういう日もあるよね)

 彼女が嘘をついていたのはわかったが、それを問い詰めることなどしない。
 人間関係を円滑に進めるためなら、少しぐらい見て見ぬ振りも必要なのだと、美玖は17歳でもうすでに理解していた。
 

*     *     *
 
 
「あー重かった!」

 紙ごみが大量に詰まったゴミ袋を校舎裏のゴミ捨て場に置く。
 両手に持って運ぶのはなかなか重労働だった。結構時間かかっちゃったな、と美玖は伸びをしながら回れ右をして教室に戻るべく階段へと向かう。
 すると、ちょうど階段から降りてきた青年と目があった。

「ああ居た。桜井さん、大丈夫だった?」

「上條くん」

 クラスの人気者、上條が一人でゴミ捨て場の前までやってきてくれたのだ。
 階段を最後まで降り、美玖に向きならう。

「高橋のやつ、桜井さんに重いゴミ捨てさせたんだってね。力仕事は男がやるべきなのに、全く」

「あはは…じゃんけんで負けちゃって。わざわざ手伝いに来てくれたの?」

 本来当番だったリカの代わりの美玖に、クラスでもお調子者の男子がゲーム感覚で提案してきたのだ。
 結果は見事負けて、美玖がゴミ捨て担当になってしまった。
 照れ笑いをする美玖に、上條は納得いかないといった様子だ。

「今度重いもの持つ時があったら、僕を呼んでよ。いつでも手伝うからさ」

 力仕事を任された女子に優しく微笑む姿は、まさに委員長というところだろうが。

(あ、また嘘だ……)

 彼の瞳の中の嘘を、美玖は見抜いてしまった。
 それがどういう意味での嘘かはわからないが、毎日見ている彼のことが、どうしても気になってしまったのだ。

「あの……」

 口ごもりながら告げた美玖に、

「なんだい?」

 首をかしげながら、言いたいことを促してくれる上條。
 
(今思えば、私はなんであんなことを言ったのだろう)
 

「余計なお世話かもしれないんだけど、委員会とか、クラスの決め事とか。嫌なら、他の人に任せてもいいと思うよ」
 
「―――え?」

 
 美玖の言葉に、上條は目を丸くして振り返った。
 
「無理してるみたいだから。本当は、やりたくないんじゃないかなって」
 
 彼の瞳は、クラスメイトのお願いや教師からの期待の言葉に、快く答えながらも嘘で揺れていた。
 そんな彼を毎日見ていたら、いつしか心と裏腹で無理をしているのではないかと思うようになっていたのだ。
 
「上條くんこそ抱え込まないで、もっとみんなと頼ったほうがいいって!」
 
人気者の彼に偉そうに言ってもしょうがないかもしれないけれど。
美玖は努めて明るくそう彼に伝えた。
 
「………」
 
 ゴミ捨て場の前の薄暗く狭い通路で、上條は一切の表情を消して美玖を見下ろしていた。
 
「……? 上條、くん……?」
 
 恐る恐る美玖が声をかけると、右手で自分の唇をなぞり、上條はうわごとのように呟く。
 
「……まいったな」
 
「え?」
 
「――僕の嘘、今まで誰にもバレたことなかったのにな」
 
 そう言い、前髪をかき上げた上條は、見たこともない凶暴な笑みを浮かべた。
 
 急な変貌に、体を縮こませた美玖を、壁際へと追い詰める上條。
 
「ちょ、ちょっと…!」
 
優しくて誰もが憧れる優等生。
そんな彼が、美玖の静止の声も聞かずに壁際へとにじり寄り、低い声で尋ねる。
 
「どうして、わかったの?」
 
 答えなければ許されないような言葉の圧。
 
「教えてよ」
 
整った顔、広角は上げているが、目は笑っていない。
冷や汗をかき、鼓動が跳ね上がる美玖の顎を、ゆっくりと上條が掴む。
その瞳は真っ直ぐに美玖を映しており、少しも揺らいではいない。
 
 怖い、なんて言おう、どうしよう。
 焦り、目を逸らす美玖のもとに、声がかけられた。
 
「おい、何やってんだ」
 
  声のした方を向くと、眩しい金髪を揺らした青年が、訝しげにこちらを見ていた。
 
「怯えてるじゃねえか、何やってんだよ委員長」
 
「日比谷くん…!?」
 
 一度も話したことはない、窓側の後ろの席でいつも頬杖をついている一匹狼。
 女子からクラスで一番怖がられている彼が、助け舟を出してくれたのだ。
 
 優等生の上条に壁に押し付けられていた大人しい女子という構図を、日比谷も怪しいと思ったのだろう。
 
 手を離すと、上条は取り繕った笑みを浮かべて返事をした。
 
「……別に、ただ話してただけだよ。君はここで、隠れてタバコでも吸う気だった?」
 
「ああ!?」
 
 金髪で反抗的なヤンキーの日比谷が、薄暗いゴミ捨て場ですることなんて教師に隠れてタバコを吸うためなんじゃないかと、煽るような上条の言葉に声をあげる日比谷。
 
優等生の上條に詰め寄られ、ヤンキーの日比谷に助けられた。
普段の印象とは一切真逆の状況に、美玖は頭が追いつかない。
 

(ど、どうなってるの…!?)
 
 
薄く微笑む上条と、眉間に皺寄せている日比谷の視線が交わる。
 
クラスで一番嘘つきな二人の男子が、放課後の校舎裏で睨み合っていた。


 
【第一話 完】

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