『外道の流儀〜若頭は男装の二代目を溺愛する〜』第2話(創作大賞2023漫画原作部門応募作品)
<第2話>
■明鏡会事務所
就任式のあと、幹部の男四人が部屋にて集まっている。
見渡せる上座には、凛子が座っている。
<神田陽平 明鏡会神田組筆頭>
神田「戦争だ。叔父貴を殺したやつを探して、そいつをぶっ殺す」
金髪をかき上げて、ソファに座った神田が吐き捨てる。
<松原浩一郎 明鏡会松原組筆頭>
松原「……落ち着け、神田」
向かいの席に座っている松原が、低い声でいさめる。
神田「これが落ち着いていられるかよ!? あの叔父貴が簡単に死ぬわけがねぇ。誰かに嵌められたんだ!」
<橘充 明鏡会幹部経理担当>
橘「まあこちらは恨みなんてなんぼでも買ってるやろうしなぁ。犯人が誰か読めへん」
神田の隣の席に座っている橘は足を組み、肩をすくめる。
神田「怪しい奴ら全員捕まえて、ボコって吐かせりゃいいんだ!」
<鷹村伊織 明鏡会幹部若頭>
伊織「……そこまで。あまり熱くならないように。二代目が怯えております」
正面で立ち腕を組んでいた伊織が、神田に注意をする。
口論を聞いて縮こまっていた凛子を見つめる。
神田「ん? ああ、悪かった」
凛子の様子を見て、反省し口を閉じる神田。
ふと、言い争いをしていた松原と目が合う。
凛子<松原さんて人、なんで眼帯なんてしているんだろ……?>
凛子「あの、目はどうされたんですか?」
松原はじっと凛子を見つめ、強面な顔でニヤリと笑う。
松原「……ものもらいですよ、二代目」
凛子<ぜ、絶対嘘だ……>
橘がそのやりとりに小さく吹き出している。
橘「それにしても、まー可愛いお嬢さんが二代目になったもんやねぇ」
橘が凛子に笑いかける。照れて首を横に振る凛子。
凛子「いやぁそんな…。私、父が極道だったなんて知らなかったんです。
そんな私を、何故二代目になんか……」
先日の葬式の際に初めて知った事実だった。
不思議がる凛子に、立っている伊織が返答する。
伊織「それは、お父上の優しさでしょう」
凛子「優しさ?」
伊織「義弘殿を襲った犯人は、すぐに娘がいることは探し当てるでしょう。
いずれ追手があなたに危害を加えたに違いありません。人質に取られたかもしれない」
淡々と語る伊織。
凛子<た、確かに……。そう考えると、ゾッとするな…>
伊織「でも、二代目会長としてあなたが明鏡会を継ぐのなら話は別です」
伊織「我々は、会長を命懸けで守るように誓っておりますので、そんな輩はすぐに蹴散らします」
伊織が真っ直ぐに凛子を見つめる。
驚いて口をあんぐりと開ける凛子。
神田「特に伊織、お前はな」
ため息をつき肩をすくめる神田。
凛子「……なんだか、驚いた」
伊織「何がですか?」
凛子「父とは、年に一回、私の誕生日にだけ会っていただけで、誰とどんな仕事をしているか知らなかったの。
それに、父は前科があるから、あまり会ってはいけないって親戚にも言われていて」
凛子<そう。育ての親の叔父たちは、あまり父親のことを良く思ってはいなかった。だから自然と私も何も聞かず、この歳までなってしまったのだ>
凛子「皆さんからこんなに慕われているなんて、思ってもいなかった」
幹部四人を見渡す凛子。
凛子<極道だとは思わなかったけど、部下たちの人望はあったのね>
伊織「ははは、何だそんな事ですか」
声を上げて笑う伊織と、他三人も各々口角を上げている。
伊織「ご心配なく。我々幹部全、全員前科者ですから」
凛子「え」
四人の顔が順番に映る。
凛子<ぜ、前科者? 全員が、何か犯罪に手を染めてるってこと?>
ようやくことの重大さに気がつき、凛子の顔が青ざめる。
伊織「ようこそ、裏社会《アンダーグラウンド》へ。歓迎いたします、二代目」
胸に手を当て、美しい笑顔で頭を下げる伊織。
■場面転換;事務所の入り口
伊織「手がかりを掴むために、義弘殿の亡くなった渋谷に行こうと思います」
神田「そうだな。俺も舎弟たち使って聞き込みするぜ」
橘「僕は監視カメラに映ってるか裏から探ってみるわ」
松原「俺は事務所を見張っておこう。何かあったら加勢する」
各々四手に分かれて真相を探るべく動き出す。
橘「渋谷だったら、『アイツ』が何か見てるかもしれへんな」
伊織「ええ、なので聞いてこようかと」
神田「大丈夫か? 気をつけろよ。俺アイツ嫌いなんだよなぁ」
凛子<アイツって誰だろう?>
伊織「二代目は、私と共に来てください」
事務所の入り口に停められた黒塗りの車の助手席に案内される。
伊織は運転席に座る。
凛子<わ、すごい高級車……!>
車が走り出す。
慣れた手つきで運転をする伊織の横顔を見つめる。
凛子<うう、沈黙が気まずい。何か話さなきゃ。
それにしても、伊織さんてほんと整った顔立ちしてるなぁ……>
凛子の視線に気がつき、信号で止まって助手席に視線を送る伊織。
伊織「緊張してますか? 二代目」
凛子「! え、ええ……それはまあ」
凛子<いけない、これから聞き込みに行くんだから、しっかりしなきゃ>
凛子「二代目て呼ばれるのも、なんだか慣れませんね」
伊織「昨日の今日では仕方がないですよ。でも、いずれ慣れていただかないと」
ハンドルを握る伊織が、凛子の様子を見て、ふふ、と笑う。
伊織「ショートカットの髪、似合ってますよ」
凛子「あ、ありがとう……ございます」
凛子<極道のトップに立つには男装した方が良いと、髪の毛切ってみたけど……変じゃなかったみたいね>
後ろ髪をさする凛子。
車はすぐに渋谷へと到着する。
伊織「義弘殿の姿が発見されたのは、大雨の日の早朝四時頃。
人通りもなく、襲った犯人が目撃されている可能性は低い」
交差点を走り、坂を登ってく。
伊織「ですがこの渋谷に、四六時中うろついて住処にしている奴を一人知っている」
伊織「そいつの通り名は、『宇多川の放火魔』――。諏訪という男です」
凛子<なに、その通り名……>
伊織「ああ、あそこに居たか」
ハンドルを握る伊織が、目を細めて街中の男を指差す。
諏訪と呼ばれた男は、道玄坂の真ん中でぼんやりと空を見上げている。
パーカーにダウンと厚着をし、目の下に隈がある。
ゆっくりと諏訪が振り返り、伊織と目が合い、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
<第二話完>
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