産業医が「産業医が配慮するのは業務量(残業時間等)のみ。業務内容による精神的負荷は把握・配慮外。これが労働安全衛生法に基づく対応である」と断言したことについて

誤解のないように最初に補足をすると、
東京労働局(労働安全衛生法を担当する健康課)及び労働基準監督署(労働安全衛生法担当部署)に見解を確認したところ
・労働安全衛生法上、産業医の配慮は「量(時間外勤務)」に対してのみとは言っていない。これはこの産業医の独自解釈。
産業医の役割は、従業員の健康保全のため、業務量や業務内容に関する情報を会社からももらい、医学的見地からのアドバイスを会社に対して行うというもの。そのために必要な権限を法的に与えられている。
とのことであった。

この発言を受けたのは、先月の産業医面談。
(薬を飲んでいれば)症状が収まってきたので、復職にあたっての相談をしたところ、「通常のPJ業務が出来ても、PIPを受けられるようになるまで復職不可」という言葉に続き、復職後の配慮に関して言われたものである。

労働安全衛生法における産業医の役割については、当然、産業医の方が詳しく私の方が素人である。そのため、その場で言い返すことはせずに、淡々と聞いて労働局等に見解を尋ねた。
そして労働局等の見解を聞いてからずっと疑問に思っているのが、
「何故、産業医はこの発言をしたのか」
である。

何故、産業医がこの発言をしたのか

何故、「業務内容を把握し、会社に対して助言しようとしないのか」
は(それが適切であるかはさておき)説明が思いつく。
「楽だから」「会社と産業医が互いにwin-winの関係となるから」である。
数値的な業務量(残業時間等)のみを把握し、会社に助言するだけであれば産業医の業務は楽だろう。(今ならAIでも出来るのではないかと思う)
だが、業務内容の把握・配慮は、その内容が従業員ごとに異なり、多岐に渡るため、産業医の業務は増加する。
そして産業医から助言・勧告等がなければ、会社は考慮する必要がない。実際に把握している事実すらも、医学的見地では問題ないということができる。『PIPによる体調への影響については、産業医も問題ないと判断している』というのは、PIPの最中、人事部(コンプライアンス窓口も兼ねている)から何度も言われた言葉である。

何故、産業医がこの発言をしたのか

一方で、何故、それを従業員に対して言ったのか。
仮に実態が上記のとおりであったとしても、
従業員に対しては、「可能な限り配慮はするし助言も行うが、産業医による把握はどうしても限界がある」と言い繕ったほうが、自分の立場を守れるのではないだろうか。
言い放った相手は、その「配慮されないことになる従業員」である。

産業医の位置づけは、「従業員の職場環境」のために、いわば第三者的な立場で会社に対して助言・忠告をするというものである。従って、産業医が業務内容の配慮を放棄するということは、従業員の職場環境のための改善機能が会社として欠けていることになる。
各ページで記載をしているが、弊社は「コンプラ遵守」を謳っている。そして「従業員の職場環境の改善に取り組んでいる」と言っている。
従って、従業員に対して「配慮しない」と産業医が公言することによる会社側のメリットもない

では、なぜ、産業医がこのような発言をしたのか。
ここで改めて、法令(または職務上求められる倫理観)の理解と発言パターンを考えてみると
法を正しく知っており、口でも配慮すると言った。→これなら問題ない
・法を正しく知ってはいるが、口では配慮外と発言をした。
法を正しく知らず、口でも配慮外と発言した。→不適切だが理由は分かる
法を正しく知らないが、配慮すると言った。→むしろ倫理観の優れた人物
となり、「法を正しく知ってはいるが、口では配慮外と発言をした」の疑問が残る。

法を正しく知ってはいるが、口では配慮外と発言をした理由

自分または会社に対してメリットがある可能性は、上述のとおり思いつかないが、もしもメリットがあるなら「利己的」「会社の利益を優先」で理由がつく。
気になるのは、メリットがない場合である。
関係書籍等を読んでいない現在、頭に浮かんでいるのは以下の2つである。
・目の前の従業員の相談を否定することに躍起になり、職務上の倫理観が頭から飛んだ。
・当初は法令や職務上の倫理観を抱いていたが、日々の業務を行ううちに、自分が行っていることが法令・職務上の倫理に適うことであると無意識に上書きしてしまった。

私は、2点目について、権力を有する側に働きやすい認知バイアスが関係しているのではと想像している。(無論、認知バイアスがあるからと言って法や職業倫理を軽んじることが正当化されるわけではない)
懸念は、2点目が認知バイアス等によるものであれば、私の担当産業医の特性によるものではなく、他の産業医も同様に振る舞う可能性が高まるということだ。
この仮説について、これから書籍等で調べていきたい。(幸い時間だけは沢山あり、図書館という素晴らしい施設もある)

なお、産業医の発言に関する会社からの回答は
「産業医は業務の量又は/及び質に対する意見を出しており、会社と担当産業医は認識一致しております」
であった。
どうか、他の産業医は異なることを祈るばかりだ。

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