『友よ、紺碧の果てをみよ 愛するものの防人たれ』
昨年、初めて須賀しのぶさんの作品を読みました。
この「革命前夜」は2020年読んだ中で、私のなかで圧倒的ナンバー1の作品でした。
なぜか同じタイミングで実家の両親も須賀しのぶさんの作品にはまっていて、これもぜひ読むべき!と2冊送ってくれたなかの1冊。
「紺碧の果てを見よ/須賀しのぶ」
会津出身の父から「喧嘩は逃げるが、最上の勝ち」と教えられ、反発した鷹志は海軍の道を選び、妹の雪子は自由を求めて茨の道を歩んだ──。海軍兵学校の固い友情も、つかの間の青春も、ささやかな夢も、苛烈な運命が引き裂いていく。戦争の大義を信じきれぬまま、海空の極限状況で、彼らは何を想って戦ったのか。いつの時代も変わらぬ若者たちの真情を、紺碧の果てに切々と描く感動の大作。
もうなんとも感想が難しい、だけどやっぱり読んで良かったと思える作品でした。
文庫本の解説にもあったのですが、近現代史を題材に小説を書くのはものすごく難しいらしいです。
やはり世界大戦は外交関係を無視できないし、存命している方や子孫の方もいたり、政治や思想など様々な箇所に配慮しながら書く必要があるのだそう。
確かに戦国時代や幕末と違って、近現代はフィクションとノンフィクションの境目が難しいな…と思います。また海軍が舞台なので、戦艦や航空機の描写は詳しくない人にとっては退屈なシーンになりがちだと思うのですが、そこに友情や家族への思い、また絶妙に恋愛を絡ませることによって男女問わずどの世代も読みやすい作品にしてくれています。
主人公の鷹志が会津の出身というのも、物語に深さを加えるとても良いスパイスになり、ものすごく熟慮し計算しつくしされたのだとわかります。
ちなみに私は会津藩士が幕末で一番好きなので、個人的にも嬉しいポイントでした。
須賀しのぶさん、まだ2冊しか読んでないですが「革命前夜」にも「紺碧の果てをみよ」にも通じるのが「常識や正義は一瞬で変わる」ということ。
戦争の勝ち負けもそうですが、生まれ育った地域の伝統や習慣にもよりますよね。
これはやはり、須賀しのぶさんのご両親が会津出身というのも大きく関係しているのだな、と。世界大戦はもちろんですが、戊辰戦争もこれまた然り。
「負ければ何もかも失う。決して変わらないと信じていた正義や美徳も全て奪われ、地べたに叩きつけられ、唾を吐かれるーーーー」(作中より)
なんだかこの信じていた日常が一変していくのは、いまのコロナ禍にも通じるものがあると思います。
人の数だけ正義があって、というのは当然だけど国からは方針が伝えられ、その通りに動くように大きな波のなかにいるような感覚。でもいつだって辛い目に合うのは末端で頑張っているひとたち。
そして、この作品の面白さのひとつに私たちの視線は物語にいる人と同じという点。
小説では割と当然では?と思われるのですが、戦争ものだとどうしても、解説文というのが入ってきがちです。(この戦いの名は~作戦。概要は~みたいにありがち)
この作品では主人公の鷹志たちが現在進行で戦っているものの戦況がわかりません。だから、登場人物たちが、どうしてこんな無謀な戦い方を?とか、どうして今この場所に行くのか、という疑問を一緒に持つことができるのです。(当時、いかに上層部しか情報を把握していなかったのかが分かり、やるせないのですが)
でもだからこそ、日本は敗北すると現代の私たちは知っているから余計に辛い。戦況は勝っていると伝えられていたのに、どんどん資源や物資が少なくなり、無茶な戦い方は増えたり・・・と。
後半はどんどん戦争が激化していくので読み進めるのがちょっと辛いページもありますが、前半は主人公鷹志の青春が描かれているので比較的読みやすいです!
親子、兄弟、夫婦、当時のあらゆる視点や立場を追体験できるように上手く構成されています。
鷹志と妹の雪子は・・・。もう読んでください!(笑)
特に第二章の兵学校での日々は・・・これまた胸が熱くなります。
どんな時代であっても一緒に苦難を乗り越えた友の存在は大きく、現代に通じるものがあると思いました。
今回のタイトルにしている「友よ、紺碧の果てをみよ 愛するものの防人たれ」は本作に出てくるある人の言葉ですが、この意味がものすごく大きい。
また各章の最後に手紙のシーンがあるのですが、どんな思いでしたためていたのだろうと思うと、胸が苦しくなります。
ここまで書いてしまうとネタバレになってしまう・・・!!
今と昔では当然常識も違います。
ある日命を懸けて戦うなんて、そんな覚悟なんてありません。
だけど、その心を、誰かを守ろうとするために自分の命さえ賭している人がいたということは忘れてはいけないのだと思います。
ぜひ読んでみてください。
そして、この作品を読んで会津が舞台の小説を読み返そうと思ったら、以前noteでも書いていたので、よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。
読んでいただき、ありがとうございました。
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