シーソーシークワーサー 【54 ヒトリゴトのすすめ】
【54 ヒトリゴトのすすめ】
若い子がはっきりと口に出して言った「寂しい」がいやに耳に残っている。成田から那覇まで、その少し先、春未のテリトリーのソーキそば屋までの、たったそれだけの時間で「寂しい」と言ってくれるなんて、アキハルコンビの親世代の歳というのに、可愛らしいものがある。別れ際の絢の口からは出て来なかった言葉だし、凡人も口にしなかったが、互いの目はそう語っていた。
また連絡すると言っていたアキトからの着信は、ない。その角を越えれば、実家がある。繁華街から遠く、植え込みが続く静かな裏路地を歩くうち、半年ではそう変わることのない景色に安心感はあった。次の角を曲がれば、小さな我が家だ。どうなっているかはおおよその察しがついていたが、そこには、予想通りの画が広がっていた。
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