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シーソーシークワーサー Ⅱ【78 乗せられる波乗っかるリズム 】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。


【シーソーシークワサーⅡ 今までのあらすじ】



 生前の凡人の母、那月(なづき)は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月だったが、また別の店に拾われる。そこは寂れた商店街の一角にある靴屋「ANYO」だった。


Ⅱ【78 乗せられる波乗っかるリズム 】


 商店街大通りに戻る前の、一本先の路地には扉が隣り合った長屋が並んでいる。小さくとも、そこには小さな風呂もついているようだ。
 那月のいる部屋の窓は片方向、それも隣の店屋との隙間しか見えない。景色を見るためではなく換気目的に致し方なく付けられたものだった。元々そこは住居としてではなく、犬伏が在庫の山の谷間に埋もれて仮眠をとるための空間だった。もちろん、風呂、トイレはなし。トイレは1階の店内奥の場所を利用する。簡単な洗面台と、カセットコンロが一つ置ける台所だけがそこにあった。

「女の子が暮らせるような場所じゃないかもしれないが……」

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