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朧月恋花 第3章 薔薇⑥


朧月恋花 第3章 薔薇 (初稿)

 窓際からカーテンを通り越して伝わってくる。ひんやりとした空気が布団の端を冷やし、窓にはもう細かい露がつき始めていた。希は、また布団に潜った。


「何も言うことはありません」


 夢の中では、コウがまたそう言っていた。いつまでもネガティブに反芻するその言葉は、希の中に、とりわけ大きな凹を形成している。「若者には棘がある」というが、希の場合はそうではなかった。


 サボテンやハリネズミのように外側にトゲトゲが出ている状態ではなく、内側に棘が刺さっても耐えた状態で、凹の部分が多くなり、結果として、トゲが出ているように見えるのが希だった。


 明日から会社だ。重くなる。その瞬間からずっと、体が重い。ちょうどヘソの下あたりが空っぽになったみたいに起き上がれない。ブルーマンデーが前倒し、ブルーサンデー。
 先週末の吉川との一杯の珈琲が、48時間経った今頃、効いているようだ。彼の前では、笑って、無理して飲んでいた。


 あの時の吉川の一杯は、希が手土産に持っていったチョコレートと、吉川が好きだと言っていた羊羹に合うものだった。確かに温まった。けれども、暖簾に腕押し、糠に釘、釘も刺さずは美味しいはずなのに、吉川はいつも通りの吉川だった。
 寝転がったままの布団の中から見えた景色には、窓際の棚の上の兄貴の形見のカメラもあった。いつまで経っても変わらない希の姿に、天国で笑っているかもしれない。

「お前が全部しちゃうんからさ。それで泣き言、俺に言いにくるんだろ?」


 最後に兄貴の仏壇に手を合わしたのはいつだっただろう。お盆も彼岸も帰省しなかった。兄貴の葬儀のあとから、希は母と折り合いが悪くなり、実家から足が遠のいていた。社会的環境もあり、同じ県内にいるのに、兄貴の葬式が済んでからは、二年も顔を出していない。兄の死後、母はまるで変わってしまった。


 教員免許を取ったにも関わらず、映像クリエーターになると言って東京に下宿し、高い授業料を払ったのにその学校も中退したといつまでも責めていた。それからやっと大人しくなり、教師として勤めていた兄が、突然いなくなった。
 悲しみのあまり、棘を刺したままで過ごす母は、都度、傷つきながらも棘を抜いて生き抜き、駆ける希が羨ましく妬ましいのかもしれない。母はいつも希に辛くあたった。自分の温かさを肌で感じる羽毛布団に守られながら、希は、ようやく、あの時まぶしく映った親友の衣美子の生き方を、ようやく赦せた気がした。無理に連絡を取らなくてもいい。彼女はコウと幸せなのだ。


 母と似ていたのだ。母から逃げることで、兄貴の全てを忘れようとしていたのは希のほうだ。
 明日も、吉川に会えるかもしれない。不純な動機を糧に、希はようやく布団から這い出て、カーテンを開けた。  


(続く)


【あとがき】


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 女子の「アガるよね〜っ」て動機づけはいつだって、メルヘン。でも、それは誰彼構わず見せるわけではない。「そーなのよねっ!」っていつもご飯を食べに行くと、そこのママさんと盛り上がります。


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 うーん、世間様はどうだろう?

 ターニングポイントは、10月31日ですよね?と、近所のラワタさんと話して、とにかく、みんなが辛い時だからねと、共有の理解を持ちました。うーん、日本にいて、国境は簡単に超えられる。


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 K先生、もしも空でこれを読んでいたら、笑ってください、あの時、「国連で働きたい」なんて言った14は、41になりそうです。でも、私は、国境を超えていると思います。奥様からお手紙をいただくこともあります。ありがとうございます。


 さて、

 勘違い男か、優男か、イタメンか、吉川との関係は・・・

 ようやく過去の自分を赦し始めた希。

 希と母は、そしてこの後の吉川との関係は・・・


次回もお楽しみに。

あいとかんしゃをこめて

2021年10月18日

 香月にいな

※和歌山の海南海草地域を中心に発行されている、毎月発行45000部ツーカイネットスクラム紙への掲載は11月1日予定です。編集・校正後の掲載となりますので、初稿とは異なります。悪しからずご了承ください。




そして、私の原作の脚本が採用された舞台、絶賛稽古中との情報が!!

こちらもツイキャスでご覧になれますので、和歌山県外のかたも是非!

告知◇ジェネリックダザイに4649!◇

表:ジェネリックダザイに4649!チラシ 演集様用

(あらすじ)
ここは町外れにある総合診療 ダザイ医院。
ナースの華子と院長ダザイの2人でなんとか
切り盛りしてきた。

そこにたびたび通ってくるのは、
患者番号4649鈴木香苗。
どうしてか、
4649のカルテには時間がかかって……。

医者はどっちか、患者は誰か。

そして、この病に適切な処方はあるのか。

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◇ジェネリックダザイに4649!◇

作/香月にいな
演出・構成/ 間信博

【出演】
加島愛 ・ 間天憑

【公演スケジュール】
2021年11月5日(金)19:30〜

【公演場所】
LIVE SPACE MOMENTS
(和歌山市ぶらくり丁)
観劇にお越しにの方は
こちらからご予約くださいませ。
↓↓↓
https://forms.gle/RA9J3X51oFKf4UyK6


【ツイキャス視聴チケット】

ツイキャスプレミアム配信チケット:2000円
購入はこちらから💁‍♀️✨
https://twitcasting.tv/c:the_hazama_za/shopcart/107613




※配信開始は公演5分前から

<アーカイブあり!>
リアルタイム配信終了後、
配信期間であればご視聴可能です。

※回線状況によって映像の遅れや乱れ等発生する可能性がございます。また、視聴端末のメモリ不足、画質設定、通信環境によってスムーズにご視聴いただけない場合もございますので、予め設定や通信環境等お確かめの上、ご視聴ください。サーバーの不具合以外でのご返金対応は致しかねます。

※アーカイブ期間は公演後2週間です。

●アーカイブ期間(配信日含む)●
11月5日(金)19:30〜11月19日(金)

【お願い】
ご購入画面に表示される「メッセージ」に、応援キャスト(1名)をご記入ください。
よろしくお願い致します!



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