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番外:海外で日本語を教えるために必要なもの


現在、ベルギーの大学、成人学校、そして、自分が運営するオンライン教室の三つの現場で日本語を教えています。それで、特に交換留学でやってくる日本人の学生さんから「海外で日本語を教えたいが、どうすればいいか」というようなことをよく聞かれるので少し思うことをまとめてみたいと思います。若い方の参考になれば幸いです。

ただし、あくまでベルギーでの私の経験を元にしていますので、全世界で当てはまるというようなものではないかと思いますが、そこはご理解・ご容赦願います。

日本語関係の資格

まず、日本語を教えるために必要なものとして真っ先に思い浮かべられるものが日本語関係の資格ではないでしょうか。代表的なものとして日本語教育能力検定試験があります。私が教え始めた頃にはなかったので内容に関しても詳しくは知りませんが、例題等を見る限り、かなり難易度の高いもののように思います(合格する自信はないです)。またこれと並んで、「420時間日本語教師養成講座の修了」といいうのも資格とみなせるでしょう。これも私は履修したことがないので、どんなものかは知りません。そしてこれら以外には、大学等で日本語を専攻し、課程を修めたというのも資格に相当するかと思います。

私の学生時代には日本に以上のような資格制度や大学の専攻はありませんでした。というわけで、現状、私は無資格者状態です。しかし海外で日本語を教えるためにこれら資格が絶対に必要かというと、「それはどうかなぁ」という微妙な気持ちになります。結論めいたことを先に言うとすれば、今のところは「何もないよりはあった方がいいかな」ぐらいの個人的印象です。(もちろん、若いうちに取れるものは何でも取っておいた方がいいですが)

例えば、応募者の中で最終段階で「どちらがいいか」となった時の判断材料になるかもしれませんが、日本で取った資格は現地採用者からすれな価値が理解しにくいものなので、判断材料の優先順位としては以下の要件より下に置かれるように思います。

ただし、どのような資格でも現地の教育機関によって授与されたものであれば信頼されるということはあるようです。例えば、大学での日本語専攻ということであれば、日本の大学より現地の大学でそれを終えた方が有利だと思います。おかしな現象かもしれませんが、ギリギリの成績でも現地の大学で日本学科を卒業した人の方が、「原因」を「げにん」と発音してしまう(そしてそう教えてしまう)現地の人の方が日本語教育能力検定試験に合格してやってきた日本人より採用されやすいのではないかということです。

ちなみにベルギーの場合、日本の大学で日本語を専攻し、課程を修了したとしても、それが本当にこちらの大学と比較し、単位・授業時間等で同等の内容であるかの審査を求められます。かなり面倒くさい手続きで、しかも時間がかかります。大学等で日本語を専攻したことを証明したければ、現地の大学に行くのが一番手っ取り早い方法です。言語の問題がなければ。

教員資格

もし、海外で教員として仕事をしたいと考えているなら、何をおいても出国前に取っておくことをお勧めするのが教員資格です。もちろん、先ほど述べたように、日本で取った資格なので、そのまま現地社会ですぐに教員資格として認められるかというとそうではないと思います。なんらかの審査や、現地で再度資格取得を義務付けられるかもしれません。しかし日本で取得した単位を認められる可能性があるので、取得のハードルはかなり低くなるはずです。特に教育実習を免除されれば楽な展開が待っているはずです。

私の場合は教員資格はベルギーで取得しました。既に勤務している状態で資格取得に取り掛かったので特別な履修課程に回ることができ、教育実習の免除を受けることができました。そのため、仕事をしながらですが一年半程度で取得できました。その後、色々と教育制度の改革があり、ベルギーでの教員免許取得は以前より難しくなったのではないかと思います。

現地語能力

私の中ではこれが一番重要な資格、というか能力でしょう。授業自体は下手な英語でも十分こなせます。特に、英語で書かれた教科書を使う場合、成人学校以上であれば問題なく授業は回ります。また、大学であれば日本語だけで授業をこなすことも可能です。しかし、現地語がわからないとその組織の中で事務的なものを回せないという致命的な問題が生じます。そのためということもあるでしょうが、教育機関や公共施設であれば、採用要件として現地語能力が要求されるのが普通かと思います。できなければ入り口で弾かれてしまうわけです。

現地語ができて、資格的にも問題がなく、労働ビザも持っているということで、ようやっと教育市場参入のスタートラインに立てたということになりますが、ここからが市場での戦いになります。かなり理不尽なルールがあったりするので要注意です。

国によってはあるのかもしれませんが、ベルギーの場合、経験上、ネイティブ・スピーカー優先枠というようなものはないと思っておいた方がいいでしょう。採用者の前では日本人も現地人も平等に扱われます。日本語能力に関して、ノン・ネイティブ・スピーカーに負けるわけがないにもかかわらず、また、生徒や学生がネイティブ・スピーカーを望んでいたところで優先順位は勤続年数やそれまでの勤務形態によって決まってゆきます。外国人にはなんとも歯痒い制度的壁があったりします。

まとめ

海外での日本語教師を目指すために準備しておく、心得ておくべきことは次のようになるかもしれません。

1.日本で教員資格を取っておく
2.現地語をなんとかする覚悟をしておく
3-a.日本語関係の資格は取っておいた方がいいが、それで海外での採用に有利に働くかは不明であることに留意しておく
3-b.大学で日本語を専攻するのであれば、現地の大学の方が資格として受け入れられやすい

以上は、あくまで現地の教育機関での職を得るための心得です。フリーランスを目指すというのであれば、日本語関係の資格を押さえておけばいいかと思います。

ここまで色々と書いてきましたが、結局最後に境遇を決めるのは運だと思っています。身も蓋もない言い方ですが、私がこの仕事をし始めたのは全くの運ですし(詳しくはこちらを)、ある学校で契約が切られた時にすぐ代わりの学校が見つかり、継続的に働くことができてきたのも運です。日本語が今ブームで、生徒集めにさして困難がなく、来年の持分がほぼ保証されているのも運です。ありがたいことです。

しかし、運が巡ってきても、なんの準備や備えもなければ、その運はそのまま目の前を通り過ぎていってしまうだけではないかと思います。巡ってきた運をしっかり掴み取るためにも、取れるべき資格は取れるべき時にしっかり取っておき、「その時」のために備えておく必要があるかと思います。

幸か不幸か、私はあと数年で一線を退く年齢になりました。去年からとある成人学校で日本語講座のスタートアップを開始し、軌道に乗りつつあります。今は中等学校での参入を目指しているところです。しかし、あと数年で引退です。どなたかベルギー・オランダ語地域での日本語教育の旗振り役になれるような元気いっぱいのお若い方が現れるのを心待ちにしています。



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