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長く続けることによってしか得られないもの

おかげさまで、クローバは今年で10期目を迎えました。わたしはひとりで、自分がめちゃめちゃ使いやすいと思うWebサービスを作って、それを売っています。幸いなことに買ってくださるお客様がいて、なんとか10年近くもやってこられました。
以前、誰かが独立してする仕事は、みんな個人的な表現活動のようなものだという内容の記事を書きました。花が好きな人は花屋になりたいと思うかもしれません。登山ショップを営む人たちの多くはおそらく自分でも山登りをするのでしょう。わたしのように誰かに必要とされるソフトウェアを提供して、少しだけ世の中に貢献したいと思うプログラマーもいます。でも実際に自分で商売をやってみると、10年続けるのはそんなにやさしいことではありません。

わたしは仕事がら、ときどき、地方創生や新しい働き方みたいなテーマのイベントに顔を出すのですが、みなさん地元の人を笑顔にするために地方でカフェを開きたいとか、得意分野を活かして副業でコンサルをやりたいとかキラキラした顔でおっしゃいます。うちはお客様がホームページで情報発信するためのプラットフォームを運営しているので、実際にそういったイベントやビジネスのためのサイトが立ち上がっては消えていくのを何度も見てきました。一年続くのはまだいいほうで、多くは数ヶ月で更新が途絶え、そのうちサイト自体も閉鎖してしまいます。やめてしまう理由は一概にはいえないと思いますが、最もわかりやすい理由は儲からないからです。最初のうちは新鮮味や楽しさもあるでしょうし、儲からなくてもそのうちなんとかなると思えるかもしれません。しかしそういったものはすぐに失われてしまいます。そして楽しかったイベントの準備やYouTubeの更新も、だんだんと億劫になってきます。
どんなに困っている人の役に立ちたい、自分の稼ぎは多くなくてもいいから、人助けがしたいと思って始めた町おこし事業だとしても、お金が稼げなければ続けることはできません。それでも少しは役にたったんだからいいじゃないのと思うかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ逆なのです。真面目に売上のことを考えて働いている地元の人たちからすると商売の邪魔でしかありませんし、あなたの理想を信じて協力してくれた人たちにとっては、単にいいように使われただけという腹立たしさが残るかもしれません。話はそれますが、もしこれを読んでいる人が将来カフェをやりたいと思っているとしたら、まず白楽の珈琲文明さんに弟子入りしてみてください。絶対に失敗するカフェの作り方を教えてくれます。そしてそれはたぶんあなたがやろうとしていることのはずです。

カフェや花屋をやるにしても、自分の好きなソフトウェアを作るにしても、続けていくためには、どうすればお金が儲かるかを考えないといけません。そうしないと誰も幸せにできないし、自分がやりたいことも実現できません。逆説的なようですが、もしあなたの目的が楽してお金を儲けることであれば、独立なんかせずにサラリーマンを続けたほうが、ずっと期待値は高いといえます。

これまでホームページのプラットフォームを運営していて、なんとなく、ああこの人は長く続きそうだなと思う人に共通していえることがあります。例えば、顧客が喜びそうな情報を継続的に発信している人です。初期のころから使っていただいている大和のケーキ屋さんは、ブログで自分のお店だけでなく、近隣のおすすめしたいお店もばんばん紹介したりします。それから大事なのは、専門家の目線から情報を発信していること。こちらもうちのお客様で、書道教室のブログですが、書道をやったことがなくても専門家ならではの切り口で興味をひかれますよね。

逆に、すぐ辞めてしまうしまう人は、読み手のことを考えず、自分が宣伝したい情報ばかり発信していることが多いです。こういうところからも、その事業に本気で取り組もうとしているかが伝わります。商売をやっていると、小さい信用の積み重ねがいかに大事かがわかります。よく、芸能人などは人生で2回売れないとだめだと言われるらしいです。どんなに大きく売れたとしても、せいぜい10年くらいで飽きられてしまうという意味なのでしょう。そこまで大当たりできない我々にとっては、常に何かしら感謝されることをして信用を積み上げていないと、すぐに顧客は離れていってしまいます。勢いよく風船を上に打ち上げたとしても、すぐに落ちてくるのと同じです。風船は一番上にあるときが一番上向きなのではありません。すでに勢いを失って、落ちてこようとしているのです。商売を続けるとは、こういった地道な積み重ねをやるということです。

風船が落ちたら終了するゲーム

本当にやりたいことをやるには、自分で事業を立ち上げるしかありません。自分は会社でやりたい仕事がやれているよという人もいるでしょうが、それは本当の意味ではあなたの仕事ではありません。高い視点で見ると、会社という乗り物に関わることができるのは、それを所有する株主と運転する経営者だけなのです。経営者が毎年生み出す利益に、リスクプレミアムみたいなものを上乗せしたお金を支払うことで、株主は会社を「所有」しています。利益が減れば会社の価値は下がります。価値が下がると会社が倒産したり買収されたりする可能性が高まるので、経営者は利益を上げようとします。この手の話に社員は一切登場しません。社員は法律上は「使用人」と呼ばれ、言ってみれば工場の設備なんかと大きな違いはないです。だから社員が10億円売り上げてもその利益を受け取れない代わりに、10億円損失を出して破産するリスクもありません。だからサラリーマンである以上、人生を捧げる価値のある仕事などは存在しません。むしろ企業の1ファンみたいなものと割り切ったほうがいいかもしれません。本当にすべての責任を負ってやりたい仕事をするには、自分で立ち上げるしかないのです。そして、自分の仕事を続けることによって得られるものとは、自由そのものだとわたしは思います。