働くおじさんへのラブレター
働かないおじさん。
世間では、我々世代をそんなふうに言ってる奴らがいるらしい。
クソッ!
たまったもんじゃない。
俺は、頑張ってきたんだ。
何年も、何十年も。
身を粉にして働いてきた。
働くおじさんだぞ、俺は。
まぁ、いい。
働くおじさんとしての役割も、もうすぐそこまでだ。
帰宅して、いつものように独りで晩酌していて。
気分が良くなったところで、カミさんにこんなことを言った。
” 先日会社から新い制度のアナウンスがあったんだ。
どうやら、60歳の定年後、そのまま70歳まで再雇用してもらえるらしいんだ。
保守的なうちの会社にしては随分と思い切った制度だよな。
でもさ。俺は60歳で定年退職しようと思ってるんだけど、どうかね。
お前よく、旅番組、楽しそうに見てるだろ。
だからさ。
退職金で、二人で海外一周の旅でもいかないか? ”
ちょっと照れくさかったけどさ。酔いも回って、思わず口からこぼれたんだよ。
そしたらさ。
カミさん、俺に向かって、こう言ったんだ。
” 何言ってるんですか?
いい加減にしてください。
そんないい制度なら、もっと働いてちょうだい。
あなた、からだもどこも悪くないんだし。
旅行に行くったって、その後は、ずーっと家にいるつもり?
あなた、趣味もないし、近所にお友達もいないじゃないの。
暇を持て余すに決まってますよ。"
酔いが一気に冷めちまったじゃないか。
仕方ない。
もう少し考えて、改めて話をするか。
次の日、出社したら、若手社員がこんな話をしてるのが聞こえてきた。
" 聞きました?
うちの会社で、新しく導入する制度。
なんか、おっさんが、そのまま引退せずに、希望すれば70歳まで残れるらしくて。
働かないおっさんばっか増やして、どうするつもりなんすかねー? "
でた!
働かないおっさん。ここにも言ってる奴がいたよ。
俺の何十年のキャリア、いや、人生、なんだったんだよ…
汗水垂らして、不平不満も言わずやってきて、これだ。
お前らだって、若くてピンピンしてられるのも今のうちなんだぞ。
ったく…
やり切れない気持ちで、自分の席に戻る途中、
次期課長候補に、と声が上がっているエース社員から声をかけられた。
" 新制度についてどう思いますか?
会社、残ってくれますよね?
あ、これじゃ、僕の押し付けだな。
でも。
佐藤さんが持っている技術って、この会社の財産だと思っていて。
自分も、この先あなたから学びたいこと、まだまだあるんです。
だから、ぜひ、制度を活用して、会社に残ってもらえたら嬉しいな、って。"
これまであまり深い話をすることがなかったのに、
突然真剣な目して、そんなこと言ってくるもんだからさ。
思わず目頭が熱くなったよ。
働くおっさん、と。
コイツの中では、そう認識してくれてるんだな、って。
嬉しいもんだよ。
自分を必要としてくれている人間、
自分の技術を買ってくれている人間がいるってさ。
勝手にここらで幕引きだって思ってたけど。
昨日、カミさんに言われた通り、多少からだにガタはきてるものの。
まだまだやれそうだし。
もう少し走ってみるかな。
残りの人生。カミさんとの暮らし。会社の若いもんへ残すもの。
もうちょっと真剣に見つめてみるかな。
今、人事制度の支援をさせていただいている会社さんで。
再雇用制度の制度化に向け、取り組んでいるところです。
どんな制度だと、会社にとっても、近く制度を利用する人、もう少し先に利用する人たちにとって良いのか。
色々と妄想が膨らむんですね。
今日は、考えている途中に、ふと上に書いたようなストーリーが浮かんで、一人で涙が出そうになったり笑
法律とか、運用のしやすさ、とか。
そんな形だけのモンだけで考えずに。
その人の人生、その人の周りの人の人生。
そこを取りこぼさないように想像しながら、形にしていくお手伝いをしたいな、と思ってるんです。
働くって大変です。
でも、働くって幸せなことでもありますよね。
幸せな仕事人生だったな。
そんな風に、一人でも多くの人が思ってくれる日本、世の中だったらいいな。
微力だけど、私は、そのために働きたいのです。
働くおばさん、でありたいのですよ。
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