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冬の枝の先の雪

自分が住む街は、ひと冬の積雪量が2〜3mにもなり、街中は白い壁に囲まれた迷路のような景色になる。
白い壁は、ただただ雪が積もってできているわけではなく、夜間に道路に降った雪を明け方に除雪車が道路脇に片付けてくれることで日に日に高さを増していく。多い日だと一晩で50〜100cmほど降るこの街は、おそらく常時3m近い壁が道の数だけ作られている。

そういうこともあってか、この街には街路樹が少ないように感じる。少し遠くを見渡せば山々が広がっているので緑に富んではいるものの、散歩中に木を近くで感じる機会は意外と少ない。まじまじと木を見ることもない。なので、木単体で季節を感じたいのならば、井の頭公園や日比谷公園のほうがよっぽど堪能できるかもしれない。桜並木で人が賑わう土地で育った自分にとっては、間近で木を見れないことが少し寂しくもあり、近くで木を見ることができるスポットを見つけると、童心に返ったように近づいてしまう。

勤め先の某美術館には小さな畑と少しばかりの芝生の広場があり、控えめそうな雰囲気をまとった木が数本静かに立っている。
あたたかい季節の晴れた日は、葉の隙間から溢れる光にうっとりしてしまうし、秋は暖色の落ち葉を探してはカサカサ足音を鳴らしてしまう。周りに聴こえない程度に鼻をならしながら、木ってやっぱりいい!と心の中で興奮する。

冬。雪が降った翌朝、枝の一本一本が着飾るように白をまとっている。枝先に積もった雪を見ることができるタイミングは限られていて、降雪の翌日でも日中の気温や日差しによっては午後には消えてしまう。なかなかに儚いのだ。
そんな枝先の繊細な美しさを見れた日には、いつだってこの細やかな季節の歓びを感じられる心を忘れたくないなと、感動と誓いが混じったような気持ちになる。

3月になり降雪は終わりを迎えた。
あの美しい枝先に再会できる日まで、あと1年。

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